「浮気しちゃぃやョ!! カォリ」
五年前、酔いつぶれてしまった友人の背中に丸文字で落書きした。仲間5人で爆笑しながら、彼の背中の写真を撮った。それから数日後、友人は彼女と非常に険悪になった。彼女は背中の落書きについて、彼を問い詰めてはいないようだった。女のプライド、だろうか。冷たくなった彼女の態度に、理由が分からず悩む彼。俺たちは、落書きのことを言いだせなかった。
さらに数日後、友人は彼女と別れるかもしれないと言いだした。彼は、彼女の不機嫌の理由を知らない。この状態になって、俺たちも動揺し始めた。三年近く付き合ってきた二人。彼らを破局に導こうとしているのは、俺たちの悪ふざけの落書きだ、多分。いや、多分じゃないか。
数週間後、合コンざんまいの彼がいた。半ばヤケッパチに遊びまくる彼を見て、俺たちは胸を痛めた。合コンで酔いつぶれた彼の背中に、
「ゴメンよ」 「許してくれ」 「すまん」 「申し訳ない」 「カォリ」
と寄せ書きをした。そして、やはり、爆笑しながら写真を撮った。毎度、このグループは悪のりが過ぎるのだ。もちろん、彼がその落書きに気づくことはなかった。
数ヶ月後、元彼女は、やはり耐えきれなかったのだろうか。久しぶりに彼に連絡をとってきて、「カオリって誰よ」と彼を問い詰めたらしい。その時になって、彼は初めて俺たちのイタズラを知ったのだった。だが、彼は俺たちに対して怒らなかった。彼女に対しても、一切の言い訳をしなかったようだ。気持ちのいい男なのだ、彼は。
五年後、つまりつい最近、彼と彼女から結婚式の招待状が届いた。結婚式に参加した俺たち悪い友人五名。披露宴での出し物は、誰が言いだすともなく決まっていた。フンドシ姿にTシャツでステージに上がる俺たち。一気にTシャツを脱ぎ捨てて、新郎新婦に背中を向けた。背中には、お互いにマジックでデカデカと書いた、
「お」 「め」 「で」 「と」 「う」
会場で一人、彼だけが大爆笑。不思議顔の新婦に、彼が顔を寄せて何か話していた。彼女はみるみるうちに泣き出して、それから笑いだして、半泣き半笑い。きょとんとしている出席者たち。新婦が、笑ったり泣いたりしながら、ステージまでやって来た。それから、一発ずつ、全員ビンタされた。落書き事件から五年目にして、俺たちの罪は洗い流されたのだ。
「奥さん、別れてください。 カオリ」
数時間後、二次会で酔いつぶれた新郎の背中を優しく見守る俺たちがいた。