2018年3月1日

依存症患者は、無意識のうちに、自分の抱える困難や苦痛を一時的に緩和する物質を選択し、過酷な今を生き伸びて「死なずに済んでいる」のではないか 『人はなぜ依存症になるのか』

トピラメート(商品名トピナ)という薬がアルコール依存症に対して有効かどうかの研究がなされた。対象患者の半数にトピラメートを、残り半数にはプラセボを内服させたところ、トピラメート服用群のほうが改善の程度が顕著であったが、プラセボのほうにも改善は見られた。

興味深いのはここからで、この研究プロセス全体を通じて、最も飲酒量の減少が見られたのは、なんと待機期間(研究の対象となる患者を予備選抜して正式に研究登録するまでの期間)であった。予備選抜の過程で、研究者と患者が飲酒に関して丁寧に話し合いをしたことが、患者の飲酒問題への認識を高め行動を変えた可能性があるのだ。

さて、依存症について「自己治癒仮説」というものがある。アルコールをはじめとした依存症患者は、無意識のうちに、自分の抱える困難や苦痛を一時的に緩和する物質を選択し、過酷な今を生き伸びて「死なずに済んでいる」のではないか。これが依存症の自己治療仮説の中にある考え方である。そして自己治療仮説は、依存症というものを、
「患者が自分で引き起こしたもの」と決めつけるのではなく、「まちがった方法であったかもしれないが、問題を解決するための試みであった」と捉えることを可能とする。
そこで治療者は、
依存症患者に対して、「その薬物をつかってどんな風になったかではなく、その薬物があなたに何をもたらしてくれたのか」を尋ねる必要がある。

本書は非常に良い本だと思うが、値段のわりに誤字が多すぎる。1‐2ヶ所なら許容範囲だが、こうも多いと辟易する。訳者・松本先生の責任というより、これは編集者の怠慢だろう。もう少し丁寧に読んでチェックした後に出版すべきだ。

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