2017年10月27日

パーキンソン病、ひとまずこれ一冊! 『パーキンソン病の診かた、治療の進めかた』


精神科医でありながら、祖母のパーキンソン病を見逃してしまった。

農業で鍛えた身体をもち、気も張っていた彼女が、少し前から「調子が悪い」「声も出ない」といったことを言うようになっていた。電話で話しながら、
「心配ない、声は充分に聞こえているよ。歳をとっているんだから、若いころみたいにはいかないものさ」
そういうふうに慰めていた。

一年ほど前のある日、糖尿病でかかりつけの病院に行ったところ主治医が不在で、たまたま代診したのが神経内科の医師だった。そして入室した祖母を見るなり、
「あなた、パーキンソン病がありますよ」
そう言ったのだという。そして抗パーキンソン病薬の内服が始まった。治療効果はてきめんで、翌日には「歩きやすくなった」「声が出るようになった」と喜んでいた。

このエピソードは大きなショックだった。精神科と神経内科は別物だが、遠い親戚くらいには思っていた神経内科医の「目」に、改めて畏敬の念を抱いた。そして、精神科医でありながら身近な祖母のパーキンソン病を見逃すだけに留まらず、「歳のせい」と言って慰めていたとは……、深く反省と後悔。

その後悔があるので、パーキンソン病を「診断して治療ができるように」とまではいかないまでも、もしかしたらと疑うことができて、神経内科受診を勧めて、治療につなげられるような精神科医になりたいと思った。これまでに、患者で一人、付き添い家族で一人、パーキンソン病の疑いがあることを指摘して治療にもっていくことができた。

さらに知識を得るべく、パーキンソン病についての良い本を探していて本書に目がとまった。内容は臨床編と基礎編に分かれており、特に臨床編は具体的・実践的であった。文献を明示した「根拠ある治療」だけでなく、著者の想いや配慮なども書いてあったのが良かった。たとえば、
「ご主人が患者さんの場合、奥様に色々症状のことを言われるのが嫌」
という項目で、「また背中が曲がっているわよ」「またよだれがおちるわよ」などの言葉が辛いものであることを指摘している。同じく女性が患者の場合には、夫に対して家事をそれとなく手伝ってあげるよう促すなど。こういう著者の「臨床哲学」に触れられる本は、勉強になるだけでなく面白いから大好きだ。

後半の基礎編のほうは、ちょっと専門に入りすぎていて流し読みになってしまったが、非専門医なら、パーキンソン病の診断・治療については、ひとまずこれ一冊でOK!


ところで、本書を読んで知ったのだが、農薬への長期暴露はパーキンソン病のリスク因子なのである。若いころから農婦として生きてきた祖母が発症するのもむべなるかな、である。

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