2017年9月29日

ミスや事故を防ぐことには、最先端の治療と同じ価値がある

アリセプト8mg内服している入院患者について、主治医が「アリセプト中止」と指示を出したところ、アリセプト5mgは外されたが、後発品ドネペジル3mgは続行していた、というミスがあった。

スタッフからは「アリセプトとドネペジル中止」と指示がないと分からないという苦情も出た。

さて、みなさんのご意見はどうだろう?

精神科で働いているのだから、精神科系の薬については商品名だけでなく一般名も把握しておくべきだ、という意見がある。たしかにその通りだが、そう指摘するだけでは今後のミス防止にはつながりにくい。

5mgは先発品、3mgは後発品となっている当院の在庫状況にも問題がありそうだ。おそらく先発品5mgの院内在庫がなくなってから後発品に切り替わるのだろうが……。それがいつになるのかハッキリしないし、アリセプトだけでなく、他の薬剤でも同様の状況である。

電子カルテによる処方歴はどう表示されるかというと、
Rp1
 アリセプト5mg 1錠
 ドネペジル塩酸塩OD錠3mg(アリセプト) 1錠
※半角カタカナは変換ミスではなく、カルテ仕様そのまま。

カッコ内に半角カタカナとはいえアリセプトと書いてあるのだから、それを見落としたのならスタッフの問題だろう、という意見もある。大いに一理あるが、やはりそれも、再発防止という点では益の少ないものである。「塩酸塩OD錠」という部分は俺でもアレルギー反応を起こしそうで、それ以下の部分がカッコ内も含めて無視されそう、という気もする。

同じ薬でも、用量により先発品と後発品が混ざっていることが多いせいで、こういう事故につながるのだろう。表記を商品名に統一できないのなら、いっそすべて一般名表記にするほうが、こういう事故は防げるはずだ。

「スタッフ勉強しろ」「スタッフちゃんと画面見ろ」

こういうのは事故の再発防止策とは言えない。

スタッフにミスをさせないためには、どういう指示の出しかたが良いのか。そして、良い方法が見つかったら、それをどうやって全体のシステムに取り込むか。こうしたことはリーダーとしての医師の仕事でもあると思う。

たとえばうちの精神科では、注射する部位について「右」「左」ではなく、「みぎ」「ひだり」と書くようにしただけで、左右の取り違え報告がゼロになった。

医療は薬や機器や手技がどんどん新しくなり、過去の方法のままやると事故につながったり、過去の方法そのものが「ミス」であったりする。だから、医療におけるミスや事故を防ぐための学問は地味ながら、どんな時代でも「最先端医療」なのである。

元プロ野球選手・監督の落合博満は、

「点数をとる強打者と、点数をやらない守備の名手は、同じくらい評価されるべきだ。守備で1点をとらせないことは、攻撃で1点とるのと同じ価値がある」

というようなこと書いていた。

同じことが医療ミスや事故の防止にも言える。

ミスや事故を防ぐことには、最先端の治療と同じ価値があるのだ。

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