2017年7月28日

盲信禁忌! 『医者は認知症を「治せる」 かかりつけ医に実践してもらえるコウノメソッド』

同僚先生のところに「コウノメソッドをやってください」と希望してきた人がいたらしい。そのときに初めて存在を知り、ネットでちょっと調べて、「ふーん」でスルーしてきた。とはいえ、中身をまったく知らないで無視するのもどうかと思い、読みやすそうな新書を購入。


提唱者である河野先生の考えの柱となる部分にはほぼ全て同意できる。認知症の症状を「中核症状」と「周辺症状」に分け、さらに「陽性症状」と「陰性症状」とに分類して、薬物療法をそれに合わせて変える。これはことさら特別なことではなく、河野先生でなくても認知症診療を一定数以上やっている医師なら当然のように分かっていることだ。河野先生の考えが特別に斬新で革新的ということはない。

河野先生の素晴らしい点を挙げるなら、
認知症治療はご家族のためにこそある。
「介護者保護主義」
患者さんと介護者とどちらが一方しか救えないときは、迷わず家族を救います。
こうやって自らの診療スタンスを明言しているところだ。治療者がこういう言葉をかけることで介護者は大いに救われるし、こころの余裕を少しだけ取り戻せるだろう。そのささやかな余裕が、介護する際のゆとりにつながり、患者への優しさになる。その優しさが患者を少し安心させ、その安心は周辺症状をわずかながら改善する。そういう好循環は大いにありえる。こう書くと簡単なことのように見えるが、実際に患者と家族という二者を前にして、「介護者を優先します」と言い切るのはなかなかできるものではない。

また「アリセプト一辺倒の処方」や「患者をみないで添付文書どおり増量」に対する批判はまったくもってその通りだと思う。このあたりまでは、読みながら大いに頷けることが多かった。河野先生に親近感さえ抱いたほどである。

ところが、認知症のタイプ別処方になったところで、ちょっと距離をおきたくなった。具体的な処方は無料公開されているPDFのコウノメソッド(PDFに直結しないようグーグル検索結果をリンク)に書いてあると思うので触れないが、ちょっとどうかなぁという部分が散見された。

河野先生の言う「認知症は治せる」は確かに正しい。ただし、これは本書にもあるように、「記憶障害や人格変化といった中核症状が進むのはやむをえないが、幻覚や妄想や暴言・暴力といった周辺症状は改善できる」という意味である。そして、「コウノメソッドで認知症は治せる」もおおむね正しいだろう。しかし、「コウノメソッドでしか認知症は治せない」となると間違いである。コウノメソッドでなくても、認知症医療に真摯に取り組んできた医師であれば、同等の効果をもたらす治療は充分に可能である。患者家族がここを見誤って「コウノメソッドでないと治らない」と思い込むと、治せる機会を逃したり、余計な負担を背負い込んだりすることになるかもしれない。

だから、「盲信禁忌」である。

ついでに、河野先生のクリニックを検索すると評判を見ることができた。こういう口コミを鵜呑みにするわけではないが、人気が出て患者が集まって忙しくなると、診療はどうしてもこうなっちゃうだろうなぁ、とは思う。

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