2016年10月11日

涙ぐみつつ勉強にもなった! 『救命 東日本大震災、医師たちの奮闘』


震災直後に駆けつけた医師の談話もあり、震災1ヶ月半後に派遣された俺とほぼ同じ感想なのが印象的だった。それはつまり、医療という視点だけから言えば、「意外に落ち着いている」ということである。

東日本大震災では津波被害がメインで、無傷で逃げ切るか、流されて亡くなるか。ほとんどこの二者択一で、阪神大震災のように外傷が多くて大混乱という状況とは異なっていたようだ。だから、救急を専門とする医師やDMATが駆けつけても、活躍の場がそう多かったわけではない。臨床能力よりも、薬や診療所の不足、医師の配置といった問題を解決するコーディネート能力が求められたようだ。

それからナルホドと思ったのは、病院の屋上に酸素や最低限の医療機器を用意しておくほうが良いという提言。ある病院では、災害時に患者であふれることを想定して、待合室や廊下にも酸素供給用のパイプを用意してあるそうだ。

こうした記述を読みながら、当院の「携帯電波が入らない」というのは大問題だと感じた。電波問題はだいぶ改善されたが、Wi-Fiもあったほうが良いのではないだろうか。災害時、電波はダメでもネットは生きているという状況もあるだろう。ついでに言えば、これからの世代では「外来の長い待ち時間もYouTube見ていたら大丈夫」という人たちが出てくるだろうし、苦情を減らすのにも一役買いそうな気がする。

読みながら、涙ぐんだり、勉強になったり……、良い本だった。ちなみに、海堂尊は監修のみで、最後に少しあとがきを書いているくらいである。他は署名ライターによるもので、それぞれの文章の質は高い。一つだけ質の低い文章があり、それは「新潮社取材班」によるインタビュー・構成であった。しっかりしろ!!



※米タイム誌が発表した2011年の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた医師・菅野武さんは、同僚先生の同級生だったそうだ。そこで、どんな人かを尋ねたところ、

「大っ嫌いな奴です。自己顕示欲が強くて」

とのこと。人の相性ってさまざまなんだなぁと感じた次第である。

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