2016年7月19日

ぼくたちは、自分がいまいるところにいるのだ。動きつづければ、どこか別の場所に行く。それがどこかは、着いたときにわかるのだ。 『いつも上を向いて 超楽観主義者の冒険』


30歳という若さでパーキンソン病を発症したマイケル・J・フォックスの自伝、第2弾。今回は、各章に仕事、政治、信仰、家族というタイトルをつけて、それぞれのテーマに沿った話となっている。

マイケルの症状は進行しているが、ユーモアは健在。フォックス一家の仲良しぶりも微笑ましく、同じ家族を持つ男としては負けていられないぞという気持ちにもなる。

家族の章で、すごく印象的だった話がある。

マイケルが7歳のころ、陸軍軍曹だった父の転勤のために、フォックス一家はカナダの西側にあるブリティッシュ・コロンビアから、東側のオンタリオまで車で旅をすることになった。マイケルの両親、兄、3人の姉、それに大量の荷物を乗せて、3000キロにおよぶ長距離移動だ。途中でホテルに泊まる経済的余裕はなく、毎日キャンプ。マイケルの父は厳しい人だったようで、特に子どもから「まだ着かないの?」と聞かれようものなら、怒りもあらわに、ありとあらゆる罵詈雑言で答えたようだ。

それから30年後の1997年、36歳のマイケルは、8歳の息子サムとアメリカ横断の旅に出た。そして、その途中、ワイオミングの草原を走っている時にサムから「まだ着かないの?」と質問されたのだ。マイケルはどう答えようかと悩む。

怒鳴るべきか? 脅すか? 命令? 地図を出して丁寧に説明する? 

そのどれでもなく、マイケルはこうした。
「パパにもわからないんだよ、サム」
そういいながら、サムがシートからがらんとした高速とは反対側の路肩に降りる手助けをした。
「調べてみよう。もう着いているのかもしれないよ」
マイケルは自分自身について、もともとこんな問いを持っていた。
「パーキンソン病が人生の条件を決定する、そんな引き返せない地点「そこ」にはまだ着かないのだろうか?」
そして旅の途中、「まだ着かないの?」と尋ねる息子に対し、特に意図することなく返した言葉がマイケル自身にも答えを与えてくれた。
ぼくたちは、自分がいまいるところにいるのだ。動きつづければ、どこか別の場所に行く。それがどこかは、着いたときにわかるのだ。
2冊目の自伝ということで、1作目『ラッキーマン』とかぶる話が多いのではないかと思ったが、まったくそんなことはなかった。手抜きせず、真摯に、そしてユーモラスに、自分の身の周りを描いてみせるマイケルに、またしても惚れてしまったのであった。

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