2014年3月28日

文庫版とは全然ちがうらしい 『家族狩り オリジナル版』

家族狩り オリジナル版
天童荒太は『包帯クラブ』で初めて読んで、全体的に優しさがにじんでくる小説家だなぁと思い、それから何冊か読んだ。今回はタイトルが禍々しいが、中身はそれ以上に恐ろしい。中古で単行本を買ってから知ったのだが、文庫版はほぼ全面改稿されているようだ。そういう経緯もあって、またこの「オリジナル版」なるものが発売されたようなので、ファンが多いんだろう、きっと。

ところで天童荒太は小説家にしては精神科のことをよく勉強しているほうだと思うけれど、やはり現場の雰囲気、職員心情などは現実とはちょっと違うなぁと感じた。

蔵書決定。

2014年3月26日

太陽が昇ったら、走り出せ

アフリカの大地で、ガゼルが目を覚ます。
彼は知っている。
ライオンより速く走らなければ喰い殺されてしまうことを。

アフリカの大地で、ライオンも目を覚ます。
彼は知っている。
ガゼルより速く走らなければ飢え死にしてしまうことを。

あなたはライオンだろうか、それともガゼルだろうか。
そんなことは大した問題ではない。
太陽が昇ったら、走り出せ。


『ライオンとガゼル』という詩で作者は不詳らしい。だいぶ変えているけれど、翻訳は俺。原文は以下。

Every morning in Africa, a gazelle wakes up.
It knows it must run faster than the fastest lion or it will be killed.
Every morning a lion wakes up.
It knows it must outrun the slowest gazelle or it will starve to death.
It doesn’t matter whether you are a lion or a gazelle: when the sun comes up, you’d better be running.

詩というより、啓発文みたいなものかな。

神鳥イビス

神鳥イビス
篠田節子のホラー小説。今回、恐怖をまき散らすのは、鳥。正確には朱鷺(トキ)、現在はもう絶滅したニッポニア・ニッポンである。本書が書かれた頃はまだ保護センターで2羽生息していたようだ。その朱鷺とホラーがどう結びつくのか、さすが篠田節子だ。そして、主人公の葉子のキャラがまたいい感じで篠田小説らしくて良かった。

蔵書決定。

2014年3月25日

「ゼロリスク社会」の罠 「怖い」が判断を狂わせる

2001年に起きた米国同時多発テロのあと、アメリカ国民は飛行機の利用を避け、かわりに自動車で移動するようになった。飛行機事故での年間の死亡数は全世界で1000人前後である。これに対し、推計によると、飛行機ではなく自動車移動を選んだことによる交通事故者はテロ後1年間で約1600人にのぼるらしい。

我々は日常生活でリスクを読み誤る。リスクを避けるために直感的に正しいと感じたものが、統計的に分析してみると逆にハイリスクだった、ということがあったとしても、それでも我々は直感に引きずられる。それは、山で、森で、砂漠で、海で、川で、ヒトがとっさの判断を駆使して他の生物や自然現象と対峙し勝利してきた名残だろう。高度化されていない世界では、ヒトが生き残るためには直感が非常に大切な能力だったのだ。

統計を駆使するようになったヒトは、今度は統計で嘘をつくようになる。
「足の長さと成績のよさは比例する。あらゆる年代の人に算数の問題を解いてもらったところ、足の長い人ほど成績が高かったのだ」
バカげた話に見えるかもしれないが、これは統計的に正しい。ただし「あらゆる年代」という点をきちんと考慮に入れれば、小学生より高校生が算数が解けるのは当然だと気づく。

「ゼロリスク社会」の罠 「怖い」が判断を狂わせる
上記は本書の記述から拾ったもの。前半から中盤にかけて非常に面白かったにもかかわらず、福島の原発問題に執着しすぎて本書のテーマがぼけまくり。全体で7章260ページあるうち、原発を扱った第7章が64ページ、約4分の1を占めるのは、いくらなんでもやりすぎだ。ふざけんなこのヤローと最後は飛ばし読みして、全体評価は★3つ。

家族に読ませるために蔵書。

2014年3月24日

第六大陸

第六大陸<1>
小川一水による近未来を舞台にしたSF小説。第六大陸とは月のことである。人類は宇宙へ出ることはできる、短期間なら滞在することもできる。しかしそれは、アフリカで発生した人類が、新天地、新大陸を求めて移動し拡散し定住してきた歴史から考えると、宇宙開拓と言うには未熟すぎる。せいぜい海に潜って出てくることに毛が生えた程度だろう。そんな人類が月に進出する姿を描いた小説。

難解な用語が出たり理系知識が求められたりするハードSFではないので読みやすいし、SFをベースにした人間・恋愛ドラマであり、そう肩肘を張らずに読めるそれなりにオススメの本。

蔵書決定。

2014年3月18日

0能者ミナト<2>

0能者ミナト<2>
前作が思いのほか面白かったので、試しに4巻まで購入している。話の筋はシンプルで、登場人物も良い意味で単純明快なキャラばかりで、1冊読むのに一日かからない、良い感じでラノベらしい作品に仕上がっている。これを変に凝って書こうとすると逆効果になるだろうから、筆者はそのあたりのバランス感覚が優れているのだろう。

蔵書決定。

2014年3月14日

仲間はずれ

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折れ曲がったままの吊り革。

子ネコ殺しで有名になった坂東眞砂子のホラー短編小説集 『屍の聲』が意外にレベル高くて……

屍の聲 
坂東眞砂子は子ネコ殺しのエッセイを読んで以来、どうにも生理的に読む気がしなくて避けていたのだが、このブログのコメント欄でお勧めされたのをきっかけに何冊か読んでみるかと購入してみた。そのうちの一冊が本書で、これがまたレベルの高い小説で……、うーん、子ネコ殺しと作品としての小説はなんの関係もないんだけれど、やはり気分的に影響を受けてしまっている俺であった。

蔵書、決定……。

2014年3月12日

直観を科学する―その見えざるメカニズム

「pad」と「bad」を発音しろと言われたら、ほとんど全員が苦もなくできるだろう。では、それぞれを発音する時に、声帯や口がどう違って動いているのかを説明するよう求められると、途端にできる人の数が少なくなる。

直観を科学する―その見えざるメカニズム

「直観」とは、これに近いものかもしれないと本書は言う。つまり、何げなくできているものだが、どういう仕組みになっているかというのは説明しにくい。これは確かに面白い例えだ。

本書では全体を通して直観についてあれこれ考察したり、様々な実験結果を紹介したりで、興味深いものも多々あるのだが、正直なところ訳がちょっとイマイチで……。もの凄く下手な訳というわけでもないのだが、読みやすくて素晴らしいと褒めるわけにはいかないレベルだ。

そして何よりこの本、3990円もするのだ!! 約4000円である。これは高い。同様の内容を扱った本で、もっと安いものはいくらでもあるし、そういう本をすでに何冊か読んできただけに、これは少々痛い出費となってしまった。

図書館寄贈はしないけれど、手元に置くほどでもなく、実家の書庫レベル。

名古屋の朝焼け

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夜の栄(名古屋) ノーファインダー

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2014年3月11日

誰の仕業か

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こういうの、誰がどういう意図で、どんな馬鹿力で曲げるんだろう?
カギを落とした人なんかがバールかなにかで必死に?

実家の花たち

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2014年3月10日

病院での呼び出しは、番号が当然? 名前が良い?

病院で患者を名前で呼びだすことに反対の声があるのは分かる。 特にプライバシー重視社会に慣れた若い世代ではそうだろう。ただ、カクテルパーティ効果というのがあって、騒がしい中でも自分の名前が呼ばれると聞き取れるが、番号だとかなり意識していないと聞き取れないというのも確かだ。

そして、高齢なほど番号で呼ばれる社会に慣れていないうえ、耳も遠くなってくる。名前で呼ぶなというのは若い世代の正当な主張だが、「番号で呼ばれても気付かず待ちぼうけ」な高齢者も少なからずいるだろうと考えると、これはバリアフリーの問題にもつながる話ではないだろうか。

近いうち、病院では受付けの時に「番号で呼び出し 名前で呼び出し」のどちらかに丸をつけるようになるのかもしれない(そういう病院がすでにいくつかあるらしい)。さらに時代が進んで、番号呼び出しが当然の世代が高齢になった時、さてどういうやり方が常識となっているのだろうか。

虫の目で人の世を見る―構造主義生物学外伝

虫の目で人の世を見る―構造主義生物学外伝
昆虫学者である池田清彦の本。前回読んだ本『やがて消えゆく我が身なら』が面白すぎたのだが、本書は俺の好みとはちょっとずれていて、あまり楽しめなかった。

図書館寄贈。

2014年3月6日

「患者を対象に」から、「患者と一緒に」へ指向を変えたがん研究 『病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘』

文句なしの名著で、時間と体力があれば徹夜本になっていただろう。

著者はアメリカの腫瘍内科医だが、本書は医学書ではなく、一冊の長い小説を読むかのような、そういう感覚を味わった。とにかく構成が上手い。そして翻訳者が日本の医師なので、医学的に変な訳というものがなかった。


これはすべての医学生に勧めたい。そしてがん医療に少しでも携わる医師(つまり精神科も含めたほとんどの医師)、看護師、薬剤師、その他のコメディカルにも読んでみて欲しい。そして、現在がんと戦っている人、その家族にも、科学と医学ががんに挑んできた歴史、そして今もこれからもがんの研究は進んでいくということを知って欲しい。著者が言うように、がん研究は「患者を対象に」するのではなく、「患者と一緒に」繰り広げていくものなのだから。

2014年3月4日

アメリカ陸軍リーダーシップ

アメリカ陸軍リーダーシップ
うーん、期待していた内容とは違った。かといって、得られるものがなかったわけではない。図書館寄贈レベルだが、いつか家族の誰かが読むかもしれないので蔵書しておく。

落ち葉

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2014年3月3日

火星ダーク・バラード

火星ダーク・バラード
火星を舞台にして、人間を人為的にさらなる進化形態にしようとする組織と、それに巻き込まれた人たちの群像劇。前半はちょっと退屈だったけれど、中盤からはグイグイ引っ張ってくれた。

蔵書決定。

ただ、この作者が自著のAmazonレビューで読者と直接意見を戦わせている(これこれ)のを見ると、なんだかゲンナリしてしまう。色々な読者がいて、それぞれの読み方があって、様々な評価があるのが本の世界で、それに逐一反応していたのでは身がもたないんじゃないだろうか。