2014年1月30日

はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか

はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか
篠田節子の短編小説集。一日で読み終える分量ではあるが、いずれも秀作で、プッと吹きだしてしまうようなジョークもあり、読み飽きることがなかった。

蔵書決定。

2014年1月29日

ステロイドを飲む人や家族、それから医師にもぜひ知っておいて欲しい大切なこと

副腎皮質ステロイドは様々な疾患の治療に用いられ、非常に優れた治療薬ではあるが、副作用もいろいろあって、その中の一つにステロイド精神病がある。この副作用は時に重大な結末(自殺)にも至るため、ステロイドを使用する医師は絶対に知っておき、かつ処方する際に意識しておかなければいけない。

ステロイド精神病は、プレドニゾロン換算で1日40mgを超えると発生頻度が数十倍にも上昇する。その状態像としては、躁状態が35%、うつ状態が28%、躁うつ混合状態が12%で、せん妄が13%、精神病性障害が11%である。

ステロイドの使用開始から発症までの期間の中間値は10日前後だが、4割が最初の1週間に、また2週間以内に6割、6週間以内に9割が生じる。それ以降の発症も稀ではない。
精神科治療学 Vol.25増刊号 今日の精神科治療ガイドラインより)

これまでステロイド精神病と診断した患者は3人、引き継いだ患者が1人いる。うち2人が眼科疾患、1人が腎炎、1人が顔面神経麻痺に対してステロイドを内服していた。2人が他院でステロイド治療を開始され発症している。また2人がうつ状態で、残り2人が躁状態で発症した。

自ら診断した3人のうち3人ともが、ステロイド内服開始にあたって医師からステロイド精神病に関する説明をされていなかった、あるいは、されたかもしれないが覚えていなかった。ステロイド精神病は、ステロイドを徐々に減らしたり中止したりすることで多くの患者が改善する。放置すると自殺という結果もありえる。だから、最初に説明しておくことは非常に大切だ。またステロイドを飲んだ人の様子がおかしい時に「薬剤性かもしれない」という予備知識があるだけで、本人も家族も余裕をもって対応できる。

以上、ステロイドを高用量で処方することがある医師には、ぜひとも知っておいて欲しいことである。

コンタクト・ゾーン

コンタクト・ゾーン〈上〉
30代後半の女性3人が、東南アジアのリゾートへ行ったところ、そこの内乱に巻き込まれ、命からがら逃げ出すことには成功したが、たどり着いたのは無人島だった……と思ったら、実は……、という展開。

賛否両論ありそうな本だけれど、俺は面白いと感じた。篠田節子らしい皮肉たっぷりの文章やセリフに思わずプッと吹きだすこともあった。『仮想儀礼』を超えることはなかったけれど、充分以上に楽しめた。

蔵書決定。

2014年1月24日

買って良かった、読書灯!!

早朝(4時から6時の間)に起きて本を読むというのは、俺にとっての大切な日課だ。ところが、そのためにリビングの電気をつけると、その明かりが擦りガラス越しに寝室に漏れてしまい、それでサクラが起きてくる。上機嫌だったり不機嫌だったりさまざまだが、ただ一つ言えるのは、本など読ませてもらえないということ。

デスクスタンドを買おうとも思ったが、早朝以外に使うわけではないので普段は邪魔だ。そこであれこれ検索して見つけたのがこれ。

GENTOS LUMITZ LED USBライト ルミッツ レクタン 【明るさ 90ルーメン】

GENTOSといえば、『明るすぎる懐中電灯は周囲を暗く見せる』で紹介した懐中電灯も同じ会社のものだった。値段も2000円以下と手ごろだし、失敗しても良いかと思って買ってみた。

本体の大きさは、ガラケーを二つ重ねたくらい。それを写真のように伸ばしてスタンドにする。電源は単4電池を3本、あるいはACアダプタかUSBと選択できる。明るさは俺にとっては充分だし、光が周囲に広がりすぎることもない。これの良いところは、旅行にも持っていけるということ。旅先でも読書は欠かさないのだが、これまでの家族旅行では、部屋のトイレまで行って本を読んでいた。この読書灯があれば、子どもの寝ている隣でも本が読めそうだ。

朝活の幅が広がりそうな、素敵な逸品である。


<平成27年3月5日追記>
今なら断然こちらがお勧め。
読書灯を買いなおしたら、これが非常に良かった!!

2014年1月23日

やがて消えゆく我が身なら


生物学者・池田清彦のエッセイ。

何の気なしに購入し、まったく期待せずに読み始めたのだが、これが大当たり。その時点で池田清彦ってどんな人なのだろうと思って調べてみたら、あぁ、この人はテレビで見たことあるぞ。まさかこんな面白い本を書く人だとは知らなかった。というわけで、もう2-3冊、池田清彦の本を読んでみる。

本書の中から引用紹介。
最悪なのは、子どもは皆キラキラした才能を持っているという何の根拠もない予断の下に、全ての子は個性を発揮して輝くべきだといった愚にもつかない思い込みを子どもに押しつけることだ。ほとんどの子は人並みの才能しか(すなわち何の才能も)持っていない。
人は、自分なりの倫理、という物語を生きる動物である。

2014年1月20日

ワールド・ウォーZ

ワールド・ウォーZ
原作と違い過ぎて、よくまぁ原作者のマックス・ブルックスがこれで良しとしたなと疑問符がついた……。ゾンビ映画と言って良いのかどうかもよく分からない。

感染して十数秒で発病するような病気、それもこんなに恐ろしい症状の出るものが、ここまで世界的に流行することはまずありえない。交通手段の進歩で世界が狭くなったとはいえ、潜伏期がわずか10秒程度の重篤な病気なんて、一部地域で猛威をふるって、そこに住む人がすべて感染したら終わりだ。

「ゆっくり動くゾンビなんて怖くない、楽勝だ。あんなものが世界的な脅威になることなどありえない」
という意見を持つ人が多いが、それは違う。もし現実に日本でゾンビが発生した時のことを考えてみよう。あなたの目の前には、変な動きをしている男がいるとする。実はゾンビなのだけれど、まだ世界的にパニックになる前で情報もほとんどない。彼があなたに抱きついてきたら、
「え? ちょ……、ちょっと……、やめてください」
くらいの感じで引き離そうとするだろう。そこで噛まれてしまえば、はい、あなたも感染者。

それでゾンビ化した人が増えて問題になりだした場合、北朝鮮ならまだしも、先進国でいきなり彼らを抹殺という話にはならない。まず治療法を探そうとする。そのためにゾンビ化した人を捕獲して、隔離拘束しようとするんだけれど、その過程で従事者の何人かが噛まれるなどして感染する。そんなマヌケなことがあるはずない? 全国の病院で、年間に針刺し事故がどれくらいあるだろう。患者に殴られる看護師も少なくない。不運な事故というのはそういうものなのだ。

こうしてある程度パニックが進行した段階に至って初めて、人々は「生きるためには殺るしかない」という意識に目覚めるだろう。ゾンビ映画というのは、たいていパニック発生後を描いているが、最初の段階というのはこうやって広まっていくものなのだ。ゾンビの頭に躊躇なく斧やナタを振るえるようになるまでには、乗り越えないといけない心理的・社会的なステップが結構あるということだ。

そういう段階では、ゾンビもかなりの数になっている。頭に斧を振り下ろせば退治できても、あなた斧を一日に何回振る自信がありますか? 100回? 起きている時間が18時間として、1時間に6回くらいならいけるかな。1000回だったら? 1時間に60回、それも18時間もぶっ通しで斧振れる? 

疲れたら逃げるという選択肢もある? そりゃその場は逃げきれるだろう。でもゾンビはあのゆっくりした動きで、数千人、数万人、数十万人がぞろぞろやって来るわけで、しかも昼夜を問わない。マラソン選手なみの人が3時間走って逃げて引き離しても、ゾンビは24時間休まず歩いて追いかけてくるんだよ。それで逃げ切れるなんて考えるほうがおかしいでしょ。

いやー、久しぶりにゾンビについて熱く考え語ってしまった。改めて、ゾンビの怖さとは何なのかを明らかにしておこう。

ゾンビとは、数の暴力なのである。


ちなみに、ゾンビファンにとっては原作がかなりお勧め。
WORLD WAR Z 上

2014年1月17日

HTLV-1関連ミエロパチーにビタミンB1が著効したケース

HTLV-1関連ミエロパチー(略称HAM)という病気がある。HTLV-1とは、主に母乳を介して感染するウイルスで、HAMはキャリアの2%程度に起こると言われる慢性の脊髄炎である。多くは中年以降に、歩行障害か排尿障害(頻尿、排尿困難)で発症する。運動障害、排尿障害の他に、足底のジンジン感などの感覚鈍麻があり、これは徐々に体の上の方まで進行することがある。

さて、ここからは症例の話である。ある初老患者が徐々に歩けなくなり、採血や髄液検査の結果、このHAMであると診断された。ついに家の中でも這って移動する状態となって施設に入所した。感覚異常は上肢にも広がり、この数年間は会うたびに「手が痛い、痺れる」と訴えていた。

そんなある日、ネットを見ているとHAMに対してビタミンB1が治療効果を持つことが分かったというニュースがあった。ビタミンB1なら飲んで副作用が出ることもないだろうし、ものは試しということでノイロビタンというビタミン薬を処方してみた。これはビタミンB1、B2、B6、B12の合剤で、本当はビタミンB1だけを含むアリナミン(市販のアリナミンとは大違いなので注意)という薬でよかったのだが、残念ながら当院での採用はなかった。

それから2ヶ月後、なんと患者は施設で立って着替えることができるようになり、手の痺れや痛みの訴えもピタリとやんだ。これには非常に驚いた。まさにビタミンB1が著効した症例である。

<参考>
神経難病HAMの新しい治療法としてのプロスルチアミン療法

2014年1月16日

あかんべえ

あかんべえ〈上〉
宮部みゆきは、時々こういう本を書いてくれる。悪い意味で、だ。
前半も中盤も面白いのに、後半にさしかかってくると、
「いったいなんだこれは……」
と言いたくなるような、なんか手抜きしているんじゃないかと思いたくなるような、そういう締まりのない流れになって、ずるずるズッコケのエンディングでため息をついてしまうような本が時々あるのだ。

図書館寄贈、といきたいところだが、もとは妹の本なので返却。

2014年1月9日

0能者ミナト

0能者ミナト

ライトノベル、いわゆるラノベである。アイデア勝負の作品という感じではあるが、面白かった。

世の中の怪異、物の怪と対決する毒舌の主人公は念力、法力の類を一切もたない。ついたあだ名が「0能者」(れいのうしゃ)。ただ、明晰な(?)思考でそれらの怪事件に(渋々ではあるが)立ち向かっていく。何を見てもそう驚かず怯えず飄々できるというのは、念力がなくても、法力を持たなくても、超能力を備えていると言って良いんじゃないだろうか。

続編を買うことにしたくらいなので、蔵書決定。

2014年1月7日

栄光なき凱旋

栄光なき凱旋〈上〉
栄光なき凱旋〈中〉
舞台は第二次大戦。在米の日系人たちの悲哀を描いた小説で、傑作と評されるにふさわしい本だった。分量は多いが飽きさせない。読みながら、グッと胸にくるものがあった。これは是非とも多くの人に読んでみて欲しい。

蔵書決定。