2013年12月26日

今年最後の更新

これが平成25年最後の更新。次回は平成26年1月6日予定。

2013年12月18日

吾輩は犬である

吾輩は犬である。

名前は付いているのだが、人間語の発ウォンは難しい。昔、カメの中で溺れ死んだ猫がいたらしいが、なんとも間抜けな話だ。そもそも、猫は気にくワン。人間語も分かりづらいが、猫語など全く分からん。たまに吾輩の近くに来て、なんだか訳の分からぬ事を言っているのだが、脅かしても一向に逃げようとせん。吾輩が鎖につながれているのを知っておるのだ。ええい、いまいましい。だいたい、猫のあの人間を馬鹿にした態度が気にくワン。確かに人間は馬鹿だ。それは認める。しかし、吾輩のご主人に限って言えば、それはもう立派な方だ。

ご主人を想うとき、吾輩はあの寒いダンボールの中を思い出す。あの時、吾輩は震えていた。一緒に居た兄弟姉妹たちは、一匹、また一匹と人間たちに連れて行かれ、吾輩は一匹ぼっちだった。時々、カラスがのぞきに来て、吾輩の弱り具合を確認していた。ある程度弱ったら、きっとあのくちばしで……。寒さと恐怖でどうしようもなく、吾輩はひたすらに鳴いた。鳴いて、啼いて、泣いた。そして、ご主人が現れたのだ。まさに救世主。我が敬愛するご主人……。

そのご主人が、あの馬鹿猫に笑顔で餌をあげようとしておるのに、奴ときたら自分で取りに行こうともしない。ご主人に持って来させるのだ。気にくワン。吾輩など、取りに行ってもすぐには食べられんというのに。ご主人が何を言っているのかは分からんが、目つきや声の調子や手つきで、まだ食べてはならぬ、そう言っているらしいことが分かる。仕方がないので、ご主人の顔を見て、許可されるのを待つ。なるべくヨダレは我慢しておるのだが、どうしても垂れてしまうのが恥ずかしい。なるべく早く許可されるように、一生懸命に尻尾を振る。振って振って振りすぎて、しりの筋肉がしびれ出す。うーむ、あれは苦しいもんだ。

苦しいといえば、今でこそ歳をとってしまって、あっちのほうはそれほど不満もないが、若い頃はそれはもう大変だった。家の前を若くて可愛いメス犬が通ったりすると、鎖を引きちぎってでもやりた……、いや、交尾をしたいと思ったものだ。欲求不満がたまって、夜吠えもしたことがあるが、ご主人にこっぴどく叱られたのでやめた。今となってはあれも若気の至り。

さて、ご主人には、奥様と子どもが一人ずついる。子どもはオスだ。吾輩がこの家に拾われたばかりの頃に生まれた。まあ、幼馴染と言っても良いだろう。よく散歩にも連れていってあげたものだ。吾輩がついていないと、危なっかしくて見ておれない。彼はもう十年も生きているのに、いまだにパートナーがおらず、子どももできない。欲求不満もないようで夜吠えもしない。

ああ、それにしても午後の日なたぼっこは気持ちが良い。何でお日様はこんなに気持ちが良いのだろう。もうちょっと日当たりがよければありがたいのだが。あと少しでお日様がサンサンと当たる場所に届くのだが、そうすると首が苦しい。そうこうするうちにだんだん眠くなってきた。ご主人も奥様も子どもも今日は出かけていて、なんだか寂しいものだ。いつもは奥様がなでてくれるのに。せめていい夢でも……。

ん?
何だか怪しい奴。誰だお前。何を怖がっておる。いつも見かける奴と同じ服だな。しかし、臭いが違う。お前、何をしておる。ああ、なんだ。ユービンとかいう奴か。それならそういう臭いを出せ。ややこしい。おどおどしているから、悪者かと思ったじゃないか。歳はとっても番犬の端くれぞ。この家は吾輩が守る。そう、この吾輩が守らずに誰が守ると言うのか。

なんだ、猫。またお前か。
吾輩は忙しいのだ。あっちへ行け。お前の相手をしている暇はないぞ。しっ、しっ。うー。馬鹿にしておるな。ええい、この鎖がいまいましい。これさえなければ、あいつのところまで走ってヒゲをむしり取ってやるのだが。うぬ。ふざけたことに、そんなところで寝るのか、お前は。そんな所で。そんな日当たりの良い所で眠るのか、貴様は。眠れるのか……。悔しいなぁ。この鎖がなければなぁ。えぇい、いまいましい、あいつの相手をするよりも寝たほうがましだ。無視無視。

ん。この臭いは何だ。怪しい臭いだ。
お。えっ。おぅ!? 家の裏で音がしたぞ。誰か居るな。見に行かなければ、って、この鎖が邪魔だ。ええい、くそ。裏で何か事件が、この鎖が、ご主人の家が、この首輪が、くそ、う、ぐぇっ。ぐぇほ、くっ、苦しい。しかし、事件が。この家に拾われて十年。ご主人には何のご恩返しもできぬまま、この歳まで生きてきた。今こそ、今こそ、ご恩返しの時ぞ。ええい、この首よ、ちぎれろ、ちぎれてしまえ。そして体だけで悪者を倒してみせようぞ。さあ、ちぎれろ。さあ。さ、あ、痛ててて。ああああっ、ちょちょ、ちょっと、今、ガラスが割れる音がしたよ。事件だよ。これ、絶対に事件だよ。絶対に悪者がいるよ。

おい、猫。
猫くん。
猫さま。
すまんが見てきてくれないか。いや、見てきてください。あ、無視したな。お前だって、餌もらったことあるだろ。全く、恩知らずめ。ちくしょう。おお、鎖がゆるくなった気がする。鎖の付け根が腐ってるんだな。もう一踏ん張りだ。さあ、さあ。よいしょお、よいしょお。うぉ、はずれた。猫め、ビビルな。お前のヒゲむしりなど後回しだ。顔を洗って待っていろ、ただし雨は降らすなよ。

裏庭はこっちか。あぁっ、誰だお前。この野郎。ここは吾輩のご主人の家だぞ。何をしておる。何で靴のままで家に入ろうとする。何で窓を割って、そこから入るのだ。逃げるな、噛み付いてやる。とりゃ、ぐむ、マッズーイ。何だ、お前は。クッセー。おえっ。吐き気がした。こうなりゃ吠えてやる。お、びびったな。さあ、行け。行ってしまえ。もう戻ってくるな。今度来たら、ただじゃすまさねえぞ。今度は臭くても噛み続けてやる。とっとと失せやがれ。あ、この野郎。植木鉢倒しやがって。

ふうっ。一仕事終えた後ってのは気持ちが良いな。さて、次は猫野郎だ。積年の恨み、今こそ、晴らしてくれ……、あ、居ない。お、そこか。くそ、届かん。吾輩にも塀に登る技術があれば……。ちくしょう。無念。次は逃がさんぞ。いや、いいや。猫なんかのことは忘れよう。今日は吾輩の初出陣、初勝利の日。早くご主人たちに帰ってきて欲しいものだ。楽しみ、楽しみ。褒められる。きっと褒められる。吾輩は悪者を見事に撃退したのだ。ご褒美なんかくれたりして。いやいや、いけない、いけない。ご褒美欲しさにやったことではない。これは、言わば犬としての責務。当然のことをやっただけ。大義、恩義に報いたのだ。けっして、ご褒美欲しさでは……、あ、ヨダレが出てきた。

お、帰ってきた。三人一緒だ。やっほーい。


「お母さーん。裏の窓が割れてるよー。あ、植木も倒れてる。あ、ゴン太。何やってんだ。あ、鎖引きずってる。お母さーん、犯人ゴン太だよ」
母に向かって叫ぶ子どもの周りを、老犬が嬉しそうに走りまわっていた。塀の上で、面白そうに猫が鳴いた。

2013年12月17日

院内忘年会に5000円!?

院内忘年会が近いが、参加費がなんと5000円である。

別に高いとは思わないが、看護助手もこの金額だと知って唖然とした。だって、助手の月給は手取りで10万円近くだというし、だとしたら給料の20分の1だ。そんな忘年会に行こうとは、なかなか思わないだろう。今年一年お疲れさまでしたと互いに労う場であり多少の無礼講が許される院内忘年会なのに、病院の雑事を支えてくれている看護助手さんが来にくいのはおかしい。

ふと、研修医のころお世話になった放射線科医長・M先生のことを思いだす。研修医の合宿(強制)のために研修医から一万円(給料の20分の1だ)が徴収されるという話をM先生にしたところ、先生はその場で病院上層部に電話をかけて、
「金のない研修医から一万円をとるなんておかしいでしょ。それくらい僕ら上の医者が面倒みたって懐は痛まないんだし」
と交渉してくださった。

そういうわけで、精神科で勤務する5名の看護助手さんの参加費は精神科医長である俺が支払うことにした。が、それでも家庭の事情その他で来れない人たちが多く、2名分だけを俺が出すことになった。

民間病院では、職員全員が無料招待のところもあるようだし、以前の勤務先もそれに近かった(そのかわり正装)ので、いつか当院もそうなることを祈っている。

金門島流離譚

金門島流離譚
台湾を舞台にした船戸与一の小説。今回は冒険という感じではなく、偽造品を扱う日本人が主人公の表題作と、台湾大学に通う大学生を主人公にした『瑞芳霧雨情話』の2話が収録されている。両作品につながりはない。

どちらも最初は退屈になるのかなぁと思わせておいて、途中からぐいぐい喉をしめあげてくるような、背中がびりりと震えるのを感じるような、心の中を冷たい風が吹き抜けるような、そんな展開になっていく(喉・背中・心の表現は船戸ファンにしか分からないかも)。

充分に面白かったけれど、手元に置いておきたいというほどでもなく、図書館寄贈。

2013年12月12日

ゴサインタン―神の座

ゴサインタン―神の座
俺と同年代、地方名士の息子である39歳の独身・結木輝和(ユギ・テルカズ)が、ネパールから迎えた妻・淑子によって破滅させられ、そして淑子を求めて再生していく物語。

書き出しと中間地点、そしてそこからラストがまったくもって予想外。どんな話になるのか、どこに落ち着くのか、着地点が分からないまま、文章力にひかれて読み進めると、「そう来たかぁ」というところに辿りつく。

名作である『仮想儀礼』に比べると、いささか見劣りするようなところもあるが、これはこれで良い本だった。

蔵書決定。

2013年12月11日

無名

無名
23歳の俺が『深夜特急』で大いに影響を受けた沢木耕太郎が、父の死の間際から死の直後にわたって感じたことを綴ったもの。可もなく、不可もなく、でもいろいろと考えてしまう本だった。

図書館寄贈。

2013年12月10日

晴れ男、晴れ女は本当にいる

晴れ男、晴れ女という言葉を聞いて思い出すおもしろい実験がある。

被験者に新聞を渡して、「この中の写真を数えるように」と指示する。実は新聞の中には半ページ大で「これを見たと報告した人には1万円あげます」と書いてあるのだが、普段から「自分はツイていない」と思っている人は見つける確率が低く、「ツイている」と考えている人は高かった。(これは他の実験・テストとあわせて以前の日記に書いている

この実験と晴れ男や晴れ女、雨男や雨女はなんとなく似ている。晴れ男・女とは、天気を(自分の都合の)良いほうに解釈する人たちで、自分の行く先々が晴れなら「自分がいたからだ」と思うし、もし雨だったとしても「自分を超える雨男・女がいるんだ」などと考える、あるいはその日のことを忘れる、もしくは無意識にカウントしないで済ます。雨男・女はその逆だ。

上記実験で、自分はツイていると考えているにもかかわらず一万円あげるという文字を見落とした人は、「今回はたまたま運が悪かった」と考えるか、くよくよせずに早々に忘れてしまうか、この実験の結果を「ツイている・いない」というカテゴリに含めないで済ませるかといった心の動きをするんじゃないだろうか。自分はツイていないと考えている人は、やはりその逆だ。

このように、晴れ男も晴れ女も、雨男も雨女も、ツイている人もツイていない人も、身の周りで起きていることはそれぞれ大差がなくて、ただ普段の心のあり方、スタンスが違うだけなのではないかな。

2013年12月9日

64(ロクヨン)

64(ロクヨン)
面白かったけれど、ちょっと長かったし、登場人物が多すぎたかなあぁ。でもさすがの横山秀夫、警察ものを描かせたらピカ一だ。

もともと文藝春秋に連載されていたものが単行本化にあたって改稿されているそうだが、この本は恐らく文庫化される時にさらに大幅に改稿されるのではないかと考えている。ストーリーへの集中を妨げるノイズのような部分がところどころ感じられた。もう少しスッキリ読めたら、もっと面白かったと思う。

図書館寄贈、ではなく、図書館で借りた本。

2013年12月5日

運のいい人、悪い人―運を鍛える四つの法則

運のいい人、悪い人―運を鍛える四つの法則
息抜き読書。俺自身は運が良いと思っているので、まぁどれも当てはまるなぁと思いながら流し読みして終了。嫌なことがあっても、ブログでネタにしようと考える。要はそういう姿勢でいることが良い結果につながりますよ、といった感じの本。

図書館寄贈。

2013年12月3日

スナーク狩り

スナーク狩り
これは面白かった。宮部みゆきの本は、もの凄く面白いものが多いが、時どきアッと驚くような駄作があるので本の選択に困る。宮部の著作の中では、この本はかなり面白い部類に入ると思う。

蔵書決定、というか、もともと妹の本(笑)

2013年12月2日

グランドジョラス北壁

グランドジョラス北壁
山岳ものは寒い季節に読むに限る。

本書はいわゆる「玉ひゅん」(男にしか分からない感覚)と、凍えるような寒さ(というか実際に凍えているのだが)の合わせ技。山の道具など分からないことは多々あるけれど、その高度感、寒さが伝わってきて、やっぱり山は怖いなぁ、でも凄いなぁと畏怖の念を抱かせる一冊だった。

娘をこんな危険な山屋には絶対にしたくないし、山屋の恋人・夫なども連れて来られたくないし、家に不用意にこんな本を置いておいて興味を抱かれては困るので図書館寄贈。