『子供のダウン症が発覚したのに中絶させてくれない』
こういう日記を見つけた。内容もさることながら、コメント欄も不愉快なことが書いてあるので、見る人はある程度の覚悟をしておいて欲しい。日記の内容は、概ね以下のような感じだ。
日記主は女性で、夫婦ともに20代後半の会社員。妊娠して喜んでいたら、子どもがダウン症だと発覚した。夫は、「それでも俺たちの子どもだから育てたい」と言うが、彼女は、「ダウン症は無理、健常者を生みたい」と考えている。
これを読んで、真っ先に思ったのが、
「え? 検査を受ける前に、ちゃんと話し合いしてないの?」
彼らがどういう検査を受けたのかまでは分からないが、「ダウン症だと発覚した」というからには何らかの出生前検査を受けたのだろう。
出生前検査による診断がほぼ100%確実だとして、どうして彼らはダウン症だと分かった場合に生むかどうかの話し合いをしなかったのだろう? 最近は侵襲性の低い新型出生前検査もあるが、検査が簡単だからといって、その結果も簡単に処理できると思ったら大間違いだ。
流産など深刻な副作用の恐れがある従来の出生前検査を受ける場合には、お互いにそれなりに覚悟して受けるだろうし話し合いもするだろう。だが検査が簡単になると、侵襲性の高い検査に比べて気軽に受ける人が出てくる。検査が簡単であればあるほど、事前にきちんとした話し合いを心がけるべきだし、それは検査を実施する医療機関がしつこいくらいに促すべきことでもある。
ただ、この日記は読めば読むほど釣りくさい。まず20代後半でダウン症検査を受けるのが珍しい。それから、「発覚」というほど確実に分かるためには羊水穿刺まで受けたということだろうが、これは侵襲性が高い検査で、受ける前には当然病院での事前カウンセリングがある。その痕跡が一切なく、夫婦で生むかどうかの意見が一致していない。出生前検査についてあまりよく知らない人が書いたという雰囲気がにじみ出ている。十中八九、悪質な、というかダウン症に対して悪意があり、かつどういうコメントがつくかもある程度想定した上での釣りだろうと思うが、新型出生前検査について考える良いきっかけにはなった。
ちなみに、新型出生前検査に関して凄く良い日記を見つけたので紹介。
妊婦のダウン症検査の話、陽性的中率
この記事中にもあるように、32歳の女性が検査で陽性と言われた場合、実際にダウン症である確率は30%程度である。35歳、40歳と女性の年齢が上がるにつれて、陽性結果が的中する確率は上がっていく。このあたりは、このブログで以前に書いた記事も参考にして欲しい。要はもともとダウン症の子を妊娠する率が低い年齢(事前確率が低い)での検査は、偽陽性(ダウン症ではないが陽性となる)が増えるということ。
また、これはしっかり覚えておいて欲しいのだが、検査結果の伝え方で受け手はかなり違った印象をもつ。例えば出生前検査を受けて、「10人中8人がダウン症です」と言われるのと、「1万人中2000人はダウン症ではありません」と言われるのでは印象が全然違うはずだ。説明する側が中絶を勧めたいなら前者で、生ませたいなら後者で説明するだろう。こういう風に伝え方一つで、印象や今後の選択を操作される可能性があることは知っておいたほうが良い。
<関連>
リスク・リテラシーが身につく統計的思考法
ダウン症児は親を選んで生まれてくる
ダウン症の出生前検査は、結果によってどうするのかを事前に徹底的に話し合っておくべきで、そういう大切なことを決めないうちに検査を受けることは絶対にしてはいけない。検査が簡単になればなるほど、気軽な気持ちで受けて後で揉めるというケースが増えるだろう。
— いちは (@Willway_ER) October 25, 2013
検査結果の伝え方は大事で、例えば出生前検査の結果について「10人中8人がダウン症です」と「1万人中2000人はダウン症ではありません」では印象が全然違う。患者の立場からすると、医師の伝え方一つで、印象や今後の選択を操作される可能性があることは知っておいたほうが良い。
— いちは (@Willway_ER) October 30, 2013
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