2013年11月29日

鷲の驕り

鷲の驕り
特許を題材にした国際経済小説。舞台は1990年後半で経済小説として読むにはやや古い気もするが、全体を通してみるとそこまで古臭さを感じないのは、さすが評判が高いだけのことはある。前半やや退屈なのかと思わせつつ、少し読み進めればどんどん面白くなり、終盤ではそれぞれの思惑が1ヶ所に集まってちょっとしたスパイ小説という感じになる。苦手な群像劇ではあったが違和感なく楽しめた。
こういうのが好きな人にはお勧めだが、経済小説なんか読む気もしないという人には退屈かもしれない。
とはいえ図書館寄贈。

2013年11月27日

輸血は怖いものなのです(宗教は関係なく)

HIVに感染した献血者の血液が、検査をすり抜けて患者2人に輸血され、そのうち一人に感染が認められたことが明らかになった。これに対する世間の反応は大きいが、いずれも「輸血のリスク」を日頃いかに過小評価しているかということがあらわれている。

医師であれば、輸血のリスクは医学部で徹底的に教わる。もしもHIVや肝炎ウイルスなどの検査方法が、科学の奇跡で偽陰性(今回のように、本当は陽性なのに結果が陰性になる)が完全に0%になったとしても、それはあくまでもすでに知られている病原体がないというだけであって、未知のウイルスがいないとも限らないのだ。それに、偽陰性が0%になるなんてことは今後もありえないので、どんなに検査精度を高めてもHIVや肝炎ウイルス感染のリスクはゼロにはならない。

また、HIV、肝炎ウイルスに関しては確実に感染していないと分かっている血液を用意して、輸血を受ける側と輸血用血液の血液型が完全に一致していたとしても、輸血後にアレルギーやアナフィラキシーが起こる可能性はある。中にはそれが致命的な結果につながることもある。

輸血というのはこれほどに怖い医療介入であり、だからこそ手術ではなるべく輸血をしないで済ますよう必死なのだ。決して輸血用血液が高い(例えば赤血球濃厚液であれば、400mlで約1万6000円)から節約しているというだけの話ではない。

このように輸血は怖いと主張すると、エホバなどの宗教に関係していると誤解されそうだが、俺は無宗教であり、自分も家族も必要とあらば輸血は受ける。ただ、今回のニュースに関して、多くの人の反応の根底に「輸血は安全」だという誤解が見受けられたので、こうして輸血について書くことにした。

「検査が杜撰」という意見については、最初に書いたように偽陰性がゼロになることは絶対にない。また20人分の血液をまとめて検査して、陽性が出たら各人を調べ直すという方法は決して手抜きではなく、むしろ統計的に理にかなった方法である(このあたりを詳しく簡単に知りたければ、『リスク・リテラシーが身につく統計的思考法』という本がお勧めである)。確かに1人分ずつ個別に検査するほうが精度は高い、が、しかし、費用も高い。20人まとめて検査する今と比べて20倍の費用がかかるとまでは言えないが、それなりのコストになるだろう。現在、輸血パックの値段は、例えば赤血球濃厚液なら400mlで約1万6000円、今回問題となっている新鮮凍結血漿だと240mlで約1万7千円する。これが高すぎると思うなら、今以上に手間のかかる検査は望むべくもない。

「感染しているのに献血するな」とか「検査目的の献血は最悪」とかの怒りはよく分かるが、いずれも今回の事故についての本質からはズレてしまい、今後の改善にはつながりそうにない。献血時に感染を知らない場合もあるし、そもそもこの献血者が感染を自覚していたかどうか不明だ。感染を自覚したうえで献血する「バイオテロ」的なことをやる人がいないとも限らないが、そこまで恐れだしたらキリがない。

また、検査目的の献血は確かによくない。検査目的ということは、すなわち「身に覚えがある」ということだ。偽陰性が絶対にゼロにはならないことを知っていれば、「身に覚えのある人」の献血が増えることで、今回のような重大事故が起こりうるということが分かる。ただ、今回の男性の献血は検査目的だったかどうか今のところ明らかではないので、検査目的での献血と決めつけて責めるのは間違っている。

「検査目的の献血を減らすために、献血者に検査結果を知らせなければ良い」
ある医療サイトで見かけた意見で、これは一瞬だけ納得しかけたが、果たしてそれは全体としての事態をいい方向に導くのだろうか。もし今回の献血者にHIV感染の結果を伝えなければ、彼は自分が感染していることを知らないままで、他者と無防備なセックスをするかもしれない。また再び献血に行くかもしれないし、それが運悪くまた「偽陰性」にならないとも限らない。

検査目的の献血や、結果の本人への通知に関しては、
「検査目的かもしれないが、かなり低い偽陰性のリスクに対して、ある人がHIVに感染しているということを自覚することが公衆全体としての利益にはなる」
と考えるか、それとも、
「検査目的による献血での偽陰性の結果は重大だから、たとえ公衆全体としては不利益になるかもしれなくとも、検査結果は献血者に知らせないことにして検査目的の献血を減らすほうが良い」
と捉えるかだ。これについて俺は前者を支持するが、感情的には後者も充分に理解できる。

最後に、厚労省は「検査目的で献血した可能性が高いとみている」(毎日新聞)ようだが、献血者に直接に問いただしたわけでもない段階でこういうことをコメントするのもおかしいし、上記した献血・輸血にまつわるいろいろな問題から国民の目をそらして、献血者個人が悪いかのように印象操作しているように見えて胸くそ悪い。

【追記】
日本赤十字社によると、
「現在、日本赤十字社では、HIV陽性献血者に対しHBV、HCVのような陽性者への通知は行っていない」ということだが、「感染拡大の防止、感染者の早期治療を促すために必要な措置を講じている」ようで、これは通知・非通知の一体どっちなんだ……。

<参照>
献血におけるHIV検査の現状と安全対策への取り組み
1人がHIV感染=献血血液で60代男性-輸血後、検査で陽性・日赤

エイズウイルス(HIV)に感染した献血者の血液が、日本赤十字社の検査をすり抜けて患者2人に輸血されていた問題で、輸血を受けた60代男性がHIVに感染していたことが26日、明らかになった。輸血後の抗体検査で陽性の結果が出た。厚生労働省の委員会で日本赤十字社が報告した。もう1人の感染の有無は不明。
検査をすり抜けた血液の輸血によるHIV感染が判明するのは2003年以来で、04年に日赤が検査精度を高めてからは初めて。
日赤によると、輸血された2人のうち、慢性消化器疾患を患う60代男性は、10月に持病の手術を行った際、新鮮凍結血漿(けっしょう)製剤を輸血された。輸血前の検査では陰性だったが、今月に行った抗体検査で陽性反応が出た。
もう1人は2月に赤血球製剤を投与された。本人と連絡が取れており、詳しい検査を行う。
献血をしたのは40代の日本人男性。今年2月に献血した際、6カ月以内に同性との性交渉があったが、申告していなかった。
その後11月に献血した際に、採取した血液の検査で感染が判明。日赤が過去の献血歴を調査し、2月の献血の保管検体についてより精度の高い検査をした結果、HIV感染が判明した。
HIVの感染から約1カ月半は、血中のウイルスが少なく、検査で検出されない期間(ウインドー期間)とされる。2月の献血は同期間中だったため、検査をすり抜けたとみられる。この男性は2月より前にも3回献血していたが、日赤は、いずれも感染前で問題はないとみている。(2013/11/26-19:22)
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2013112600551

2013年11月26日

こうして世界は誤解する――ジャーナリズムの現場で私が考えたこと

高校生から20歳くらいまでにかけて、落合信彦に傾倒していたことがある。今の若い人からすると、「え? 誰それ?」といった感じかもしれないが、20年前、1995年頃には若者に対してわりと影響力のある作家だった。結局は、だんだんと胡散臭さを感じてしまい離れてしまったが、高校時代のまだ右も左も分からない時期に、彼の本に触れられたことは幸せだったと断言できる。

落合に影響され、「これからの時代は中東だ!」なんて熱くなっていた俺は、九州大学で第二外国語としてアラビア語を学ぼうとした。でも、現在は分からないが、当時はアラビア語の講座は九大になかった。あっという間に諦めてスペイン語にしたが、ほとんどなんの身になることもないまま終わってしまった。

それでも中東に対しては薄らとした興味と関心が持続していた。そして、医学部一年生の時、2001年9月11日、あの同時多発テロが起きた。家に帰ってテレビを観ていたら、飛行機がビルに突っ込んだというニュースがあっていた。それも2機だ。そのニュースを見た途端、かつて読み耽った落合信彦の本の内容が一気に甦ってきた。
「テロだ……、そして多分……、今から中東が騒がしくなるぞ……」
まだなんの情報もない状況だったが、そう直感した。あのテロの真実が何だったのかはさておいて、確かにそれからの中東は荒れた(もともと荒れてはいたが)。


本書は、オーストラリアから中東へ派遣された特派員が見て体験して感じたこと。翻訳がこなれてないので、正直読みにくかったが、筆者が伝えたいことは分かった。世論は操作されているのだ。それはわざわざ指摘されるまでもなく自明のことなのだが、中東問題に関しては「どう操作されているのか」というところに意識が向くようになった。そしてまた、あとがきに書かれた、
「私もまた読者を操作しているということを、どうか心に留めておいていただきたい」
という一言に、彼の真摯さを感じた。

非常にタメになる本ではあったが、身内に読みそうな人もおらず、読み返すこともないだろうから図書館寄贈。

2013年11月25日

虹の谷の五月

虹の谷の五月(上) 
面白い! 面白いよ!!

上下巻あわせて900ページを超えるが、とにかく面白かった。出だしのあたりが少しだけ退屈になりそうだtったけれど、全然そんなことはなくグイグイ引っ張って行ってくれた。一人の少年が13歳から15歳になるまでを、少年の視点で描かれているので、複雑な政治情勢や民族紛争に深入りすることもなく、とはいえさすが船戸与一で、フィリピンの中の問題を邪魔にならない程度にちょいちょい織り交ぜてくる。

映画化して欲しいが、如何せん舞台がフィリピンで登場人物もフィリピン人ばかりなので、到底映画化など無理だろう。

蔵書決定。

2013年11月21日

アルゴ

アルゴ [Blu-ray]
面白かった。

ベン・アフレック演ずるトニー・メンデスがカッコ良い。観終わって驚いたのが、なんとベン・アフレックが監督だったということ。そしてネットで検索してさらに驚いたのが、ベンが身長192センチの巨漢だということ(笑) 観ながら体格良いなぁと思っていたんだよね。

実際の脱出作戦とはかなり違うところもあるみたい(参考:映画「アルゴ」が実話とは笑止千万)だけれど、娯楽作品としては非常に出来の良い映画。緊張感で手に汗かいてしまった。

2013年11月20日

生活保護のここが変

現在、この地域の生活保護の支給額は1人6万円ほどであるが、生保受給者の話によると「1人で約6万円の受給額が、結婚したら2人で10万円になる」らしい。つまり、1人1万円ずつ減額されるのだ。

「水道光熱費の基本料が一世帯分で良いわけだし、2人で生活すればその他の効率も上がり、必要なお金も減るはずだ」
という自治体側の言い分は確かにもっともだが、このシステムのせいで生活保護を受けている夫婦が偽装離婚することが多い。離婚の手続きをして、1人6万円の給付を受けつつ、どちらか一方の家で2人暮しを続けるのだ。

実はこの制度は夫婦だけでなく親子にも適用され、年老いた母と中年の息子の場合は「一緒に住むと10万円、別々の家に住めば1人6万円」ということになるので、敢えて息子が家を出て一人立ち(?)したことにする。あるいは親が持ち家で年金暮らし、同居の子が無職という場合には、子が生保申請しても「親と住んでいるから」という理由で拒否されるので、敢えて「世帯分離」を行ない、一人暮らしという形を作って生保申請をする。生活は今と変わらない「偽装親離れ」も横行している。

これだと、彼らはそれぞれに住居を持つことになり、自治体は誰も住まない部屋の家賃負担をすることになる(家賃は決められた上限までは自治体の負担である)。結局自治体は、2万円をケチったせいで、払う必要のない家賃を負担することになっているのだ。

この問題の解決方法は簡単で、「結婚したら(同居したら)給付金の合計金額を減らす」という制度を廃止すれば良い。そうすれば偽装離婚や偽装親離れが減るのは当然だし、中には「より効率的に生活するために」という理由で結婚する生保カップルや同居開始をする親子が出てくるかもしれない。このほうが自治体にとっては支出が少ないのではないかと思う。

この件で責められるべきは、偽装してまでより多くの金を得ようとする(というより、より損をしないように努力する)生保受給者より、偽装したほうがお得な制度を作ってそのままにしている行政のほうだろう。


2013年11月18日

夢に出てきたヨーヨー・マ

先日ヨーヨー・マを話題に出したからか、夢の中にヨーヨー・マが出てきて、
「学食でバイトしたら、職員割引で食べ過ぎて2キロ太りました」
と苦笑していた。これだけで、なんだかシュールすぎて笑えてしまうが、夢にはさらに続きがあった。

なぜか俺もヨーヨー・マも医学生で、でもヨーヨー・マはすでに世界的なチェロ奏者だった。

俺が同級生として、
「今度から君のことなんて呼んだら良いの?」
と聞いたら、ヨーヨー・マは、
「マー君でお願いします」
とはにかんでいた。世界のチェロ奏者に向かって、マー君なんて呼べるか!!

なんちゅう夢じゃ(笑)

スターバト・マーテル

スターバト・マーテル
俺が男だからかもしれないが、女性が主人公の小説や映画にはなかなか感情移入しにくい。本書は中編が二つ収められているが、どちらも女性が主人公である。心理描写は篠田節(←「子」を忘れたわけではなく、篠田ブシと言いたい)といった感じの小気味いいものがあるが、やはりどうしても入り込めない。
表題作よりは、もう一編の『エメラルドアイランド』のほうが面白かった。この本は本来であれば図書館寄贈レベルだが、母や妹が読むと面白いのかもしれないので実家に持って帰ってみる。

2013年11月17日

人の注意力を操る妙技 【TED】


この動画は凄かった。人の認知力がどういうものかを確認できる。エンターテイメントとしても素晴らしい。字幕は右下の「字幕」タブをクリックで見れるようになる。

TEDではいろいろと興味深い講演が観られる。このブログでもいくつか紹介しているので、それらもぜひ一度試してもらいたい。

<参照>
当ブログ内のTED紹介記事

似たようなことを心理実験した動画もある。
<参考>
となりの車線はなぜスイスイ進むのか?

2013年11月16日

東京駅構内のなんとかというカフェみたいなところ

IMG_6864
「あ、写真撮影はご遠慮ください!」
と怒られてしまった……。

2013年11月15日

最近聞いた、最新の島の怪談 ~誰かがいる家~

この島では、時どき気持ち悪い話を耳にする。

ある廃屋は、もう何年も人が住んでいなかった。その家の近くに畑を持つある老婆が、こんなことを言っていたそうだ。
「草むしりをしていたら、あの家の内側からドンドンと誰かが壁やら窓やらを叩いている」
それを聞いて、ばぁちゃんボケただろうと笑う人もいれば、オバケだ怖いと言って怯える人もいた。割合としては後者が多かったのだろう、その家は近所で「オバケ屋敷」として有名になった。

「オバケ屋敷」というのは田舎に行けばわりとどこにでもある。過疎が進んで誰も住まなくなった家というのはそう珍しいものではない。そんな家は、なんとも言えない哀愁と、そこはかとない不気味さを兼ね備えるのが常である。老婆が異変を感じた家も、そんなどこにでもある廃屋の一つだったのだが……。

最近のことである。その家の床下から遺体が見つかった。詳しい情報はなく、それが白骨だったのか、それとも真新しいものだったのか、そういったことはまったく分からない。ただ、「誰もいない家のはずなのに、内側からドンドンと叩く音を聞いた」という怪異と、「廃屋から遺体が見つかった」という事件、まったくの偶然かもしれないが、そこについ関連性を持たせて考えてしまうのだ。

最近聞いた、最新の島の怪談である。

ダークナイト ライジング

ダークナイト ライジング
期待しすぎた!! 

酒飲みながらだったので途中で寝落ちして、数日後に続きを観たんだけど、『ダークナイト』と比べると圧倒的にレベルが低い。というか、『ダークナイト』が異常に高い。というか、亡くなってしまったヒース・レジャーが凄すぎたね、あれは。悪役なのに、精神がイカれている役なのに、見た目が魅力的なんてこともないのに、なぜかジョーカーがカッコいい。そんな前作を超えるのは、やっぱり無理だったか。

ヒース・レジャーの役作りについての話があったので紹介。
『ダークナイト』で「ジョーカー」を演じたヒース・レジャーの日記

それから、的を射ていて面白い酷評があったので、これも紹介。
【ネタバレだらけ】ダークナイトライジングのだめなところ

2013年11月14日

チェロを愛する人たちに 『ハルモニア』

「チェロはね、人間の声にもっとも近い楽器なんだよ」
俺にオーディオの初歩の初歩を教えてくださったM先生の言葉である。俺はチェロの音色が好きで、ヨーヨー・マやジャクリーヌ・デュ・プレをはじめ色々なチェロ奏者のCDを持っている。でもなんだかんだで一番聞きやすいのはヨーヨー・マで、
「音楽好きだと言いつつも所詮お前の耳はそのレベルなのだ」
と言われそうでもある。ヨーヨー・マに関して、同じくM先生は、
「彼はね、悪魔に魂を売った男と言われているんだよ」
と仰っていた。これには二つの意味があるそうだ。一つはクラシックを大衆音楽にしてしまった異端児・裏切り者という意味で、もう一つは「悪魔と取り引きしたかのような卓越した技術」という意味だ。

悪魔に魂を売った演奏家として有名(?)なのは、18世紀のヴァイオリニストであるパガニーニだ。あまりに凄い演奏技術のため、悪魔と契約したと噂されたのだ。一説では、彼はマルファン症候群であり、その病気ゆえに指が人より長くバイオリンの演奏に利したそうだ。ちなみに、このパガニーニの演奏を聴いて、まるでワンピースのルフィのごとく、「俺はピアノでパガニーニになる!」と燃え上がったのがラ・カンパネラで有名なフランツ・リストである。

ハルモニア
本書は、最初から最後までチェロだ。ただし、非現実的なので一生懸命にチェロに取り組んでいる人からすると、「そんなバカな……」という部分があちこちにあると思う。それでも俺は、この本を読んで改めてチェロが好きになった。子どもに習わせたいくらいなのだが、その道は狭く険しい荊の道で、しかもその先には決して華やかな舞台だけがあるわけではないということもたくさん見聞きしたので、ヨーヨー・マを聴いて浸るくらいでやめておこうと思っている。

自宅でこの本を読みながら流れていたのが、ヨーヨー・マの『無伴奏チェロ組曲』であったことは言うまでもない。

無伴奏チェロ組曲

残念ながら蔵書にするほどではないため、図書館寄贈。

2013年11月13日

数で考えるアタマになる!―数字オンチの治しかた

自分の乗る飛行機に爆弾が仕掛けられることを心配している男がいた。その確率を計算してみたところ、非常に低い数字だったが彼の不安は消えなかった。そこで彼は、スーツケースの中に常に爆弾を入れて飛行機に乗るようになった。彼はこう説明した。
「一機の飛行機に爆弾が二個ある確率は無限に小さいからね」

これが面白いジョークであることはほとんどの人が分かると思うが、さて、彼の何がどういう風に間違っているのか、きちんと説明できるかというと……、結構むずかしい。

数で考えるアタマになる!―数字オンチの治しかた

似たような本を何冊か読んだ後だとちょっと退屈な本。図書館寄贈。

2013年11月12日

LOOPER

LOOPER
タイム・トラベルもので、ブルース・ウィリスと言えば俺の中での超名作『12モンキーズ』である。九州大学に通っていた頃に映画館で観て、あまりの面白さに感動した。映画のストーリーとは別に、ブラッド・ピットを見たのはこの映画が初めてで、あの狂気じみた様子が演技ではないと勘違いし、
「アメリカってすげぇな……、ホンモノの精神障害者を使ってるよ……」
と慄いた。その後、ビデオレンタル店でアルバイトをするようになって、ブラッド・ピットという俳優の存在を知り、あれが演技だったということに驚いて以来、俺は心底ブラピファンである。

ちなみに、ブラピ出演の映画でお気に入りナンバーワンは『ファイト・クラブ』で、DVDを買って何度となく観なおした。あのブラピ演じるタイラー・ダーデンの悪(ワル)の魅力は凄い。その他『インタビュー・ウィズ・バンパイア』で苦悩を抱えて生き続けるバンパイア、『セブン』では血気盛んな刑事(ラストシーンの演技が鳥肌)、『ザ・メキシカン』での体全体から発するバカ男の空気感など、それぞれ何度も観ては感心する映画である。

話が大きくそれたが、今回は『LOOPER』。こういうタイム・トラベルものは、何げなく観ていると終わった後に意味をつかみかねて消化不良気味になる。俺も「ん?」となってしまい、あとでネットで検索して「ナルホド!」と納得した。それはともかくとして、主演のジョゼフ・ゴードン=レヴィットが特殊メイクをしていたとはいえ、笑い方や喋り方なんかがブルース・ウィリスに似すぎていて、思わずそこで笑ってしまった。

話そのものも充分に面白かったが、ガッカリしたのは……、以下ネタバレ。



バカで無能な敵役キッド・ブルーがただのバカで終わってしまった。なんだよ、実はこいつがレインメーカーになるのかなんて思っていたのに……。

華竜の宮

華竜の宮(上)
物凄く長大な物語だったが、飽きることなく読める良作だった。ジャンルとしてはSFだが、SFの中でもホラーとかアクションとかで細かく分類するなら、SF行政小説(?)といった趣きのある作品。田中芳樹の名作『銀河英雄伝説』の世界設定を変えた感じで、行政的な駆け引きがわりと緻密に描かれている。また、ところどころにSFらしい(?)少々残酷だったりグロテスクだったりなシーンもあり、全体としてのバランスも良かった。

上下巻あわせて856ページという厚さで、見た感じ、持った感じがどっかりくるので、長いのを読むのが苦手な人には壁が高いか。

蔵書決定。

2013年11月11日

青空と雲と電線

IMG_6387

2013年11月8日

バトルシップ

バトルシップ
甘めの採点で60点。映像が面白いのも最初のほうだけで、後半はありきたり。

2013年11月7日

寝るのは好きじゃない、けれど……太郎のせいで寝不足だ

寝不足だ。

というのも、我が家のビーグル犬・太郎が夜鳴きするからだ。それも激しく鳴くので、いくら田舎で隣の家まで距離があるとはいえ、夜中2時とか朝4時とかに延々とワンワン鳴かれては、いつ怒鳴り込まれるかと気が気でない。その夜鳴きの原因だが、散歩が足りないということではない。どうも体調不良のようである。子犬の頃からごく稀に両目が斜視ぎみ(この時すごくブサイク)になることがあったのだが、それは数時間もすれば元に戻っていた。この夜鳴きが始まった1週間前くらいから、その状態が長く続くようになっていた。いろいろ調べてみて、もしかすると緑内障かもしれないという結論に達した。

そこで、昨日は病院を早退して動物病院に連れて行った。しかし、ちゃんとした診断はつかなかった。瞳孔の対光反射が鈍くなっていて、緑内障と言えなくもないが、そのわりには網膜からの光の反射の仕方がちょっと典型的ではないらしい。念のためビタミン剤と抗生剤を注射し、緑内障用の目薬をもらって帰ってきた。昨夜は21時から静かになったので、これ幸いと俺も早々に床に就いた。

ところで冒頭に書いたように、俺自身は寝不足なのだが、もともと寝るのが好きじゃない。寝るなんて時間の無駄としか思えないからだ。時々、「寝ている時間が一番幸せ」とか「寝るのが趣味」とか言う人がいるが、俺にはその感覚が理解できない。寝る以外で、ボーっとするのも時間の無駄だと思う。だから「ボーっとするのが好き」という人の感覚もやはり分からない。ちなみに個人的には、寝たりボーっとしたりするのが好きいうのを聞いたのはすべて女性からだ。

一人の時は、寝つぶれるギリギリまで本を読むか、映画を観るか、酒を飲むかしている。いわゆる「寝落ち」で、起きてすぐに本を読むかパソコンをするか、いずれにしても布団の上でボーっとできない。20歳の頃、テレビでタモリが、
「明石家さんまは寝る直前まで喋り、起きた途端に喋り出す」
と言っているのを聞き、そういう人になりたいなぁと思って18年過ごした結果が今である。

そういうわけで、今朝は4時に夜鳴き(朝鳴き?)し始めた太郎。様子を見に行くとやはり目がおかしい。目薬をさして、そんなに鳴くなと叱って、しばらく黙って観察していたが、あまり見えていないのかもしれない。目を開けようとせず、俺が側にいることも分かっていないようで、不安げにあたりをうかがっているような素振りをしている。

あまり悲観的に考えても仕方がない。太郎は生後3ヶ月くらいの時に生死の境を彷徨ったことがある。当時の日記を引っ張り出してみる。
良くない。今日、動物病院に連れて行った。採血しようとしたが、極度の脱水であまり採取できず。それでもなんとか採った数滴で、極度の貧血が判明。犬のヘモグロビンの正常は8-12、太郎は5弱。ヘマトクリットの正常は、37-55、太郎は13くらい。極度の脱水で血液が濃縮されていることを考えると、実際の数字はもっと低いのだと思う。

貧血の原因はいくつか考えられるらしい。ただ「数日間ご飯食べなかったから」というレベルの貧血ではない。バベシアというダニが介してうつる病気がある。非常に怖い病気で、この可能性がある。ただ、明らかなダニの寄生は確認できでいない。血液標本で調べてもらっているところ。それから、先天的な理由、例えば再生不良性貧血などの可能性。獣医さんも、決して明るい展望は仰らなかった。人間の病院で、家族が告知を受ける時は、こういう気持ちなのかと感じた。病状説明する獣医さんの苦心が、同業者なだけによく分かった。

結論としては、五分五分より悪いのかもしれない。太郎は、甘噛みすることなく、俺の腕を舐めてくる。表情も暗い。動物にどれくらいの感情があるのか分からないし、彼らの気持ちを擬人化して考えるのは好きじゃないので、飼い主としてはなるべく冷静に日々を送ろうと思う。素っ気ないかもしれないけれど、そういう飼い主に出会ったのも太郎の運命。病気になったのか、もともと病気を持っていたのか。それは分からないけれど、今こうなっているのも太郎の運命。今こうして、暗澹たる気持ちで日記書くのが、俺の運命。

願わくば、この先も一人と一匹の生活が続き、老犬の介護の大変さをブログに綴る運命であって欲しい。
あの時にも感じたが、斜視でブサイク顔になったとしても、失明したとしても、それは太郎の人生(犬生?)、運命のようなものであり、太郎には受け容れてもらうしかない。

何はともあれ、夜鳴きはほどほどにしてくれよ……。

肉食屋敷

肉食屋敷
う……うーん……、図書館寄贈。

あまり感想を書く気になれない本だった。

2013年11月6日

残暑きびしい九月の川で、誰が積んだか石の塔

IMG_6404
残暑きびしい九月の川で、誰が積んだか石の塔。

2013年11月5日

稲刈り

PICT0167

ツッコミどころはあるが、全体としては及第点 『ジャックと天空の巨人』

ジャックと天空の巨人
面白くなくはない、という感じ。
映像はまぁまぁ、ストーリーもまぁまぁ……、他は……? 何もない。

ツッコミどころは多くて、俺が一番気になったのは、「こんなに高いところまでそんな薄着で大丈夫なの?」というのと、「雲の上まで来たのに雨が降るんだね(笑)」というもの。もう少し設定とかストーリーとか練っても良かったのでは?

ただ、この映画を観て思ったのは、これゲーム化したら良い感じなんじゃないかなということ。『ワンダと虚像』のような雰囲気で、巨人たちと戦うようなゲームなら、売れるかどうかはともかく俺は買うと思う。

2013年11月1日

ダウン症の出生前検査を受ける前にするべき一番大切なこと

ダウン症の出生前診断に関して、
『子供のダウン症が発覚したのに中絶させてくれない』
こういう日記を見つけた。内容もさることながら、コメント欄も不愉快なことが書いてあるので、見る人はある程度の覚悟をしておいて欲しい。日記の内容は、概ね以下のような感じだ。

日記主は女性で、夫婦ともに20代後半の会社員。妊娠して喜んでいたら、子どもがダウン症だと発覚した。夫は、「それでも俺たちの子どもだから育てたい」と言うが、彼女は、「ダウン症は無理、健常者を生みたい」と考えている。

これを読んで、真っ先に思ったのが、

「え? 検査を受ける前に、ちゃんと話し合いしてないの?」

彼らがどういう検査を受けたのかまでは分からないが、「ダウン症だと発覚した」というからには何らかの出生前検査を受けたのだろう。

出生前検査による診断がほぼ100%確実だとして、どうして彼らはダウン症だと分かった場合に生むかどうかの話し合いをしなかったのだろう? 最近は侵襲性の低い新型出生前検査もあるが、検査が簡単だからといって、その結果も簡単に処理できると思ったら大間違いだ。

流産など深刻な副作用の恐れがある従来の出生前検査を受ける場合には、お互いにそれなりに覚悟して受けるだろうし話し合いもするだろう。だが検査が簡単になると、侵襲性の高い検査に比べて気軽に受ける人が出てくる。検査が簡単であればあるほど、事前にきちんとした話し合いを心がけるべきだし、それは検査を実施する医療機関がしつこいくらいに促すべきことでもある。

ただ、この日記は読めば読むほど釣りくさい。まず20代後半でダウン症検査を受けるのが珍しい。それから、「発覚」というほど確実に分かるためには羊水穿刺まで受けたということだろうが、これは侵襲性が高い検査で、受ける前には当然病院での事前カウンセリングがある。その痕跡が一切なく、夫婦で生むかどうかの意見が一致していない。出生前検査についてあまりよく知らない人が書いたという雰囲気がにじみ出ている。十中八九、悪質な、というかダウン症に対して悪意があり、かつどういうコメントがつくかもある程度想定した上での釣りだろうと思うが、新型出生前検査について考える良いきっかけにはなった。

ちなみに、新型出生前検査に関して凄く良い日記を見つけたので紹介。
妊婦のダウン症検査の話、陽性的中率
この記事中にもあるように、32歳の女性が検査で陽性と言われた場合、実際にダウン症である確率は30%程度である。35歳、40歳と女性の年齢が上がるにつれて、陽性結果が的中する確率は上がっていく。このあたりは、このブログで以前に書いた記事も参考にして欲しい。要はもともとダウン症の子を妊娠する率が低い年齢(事前確率が低い)での検査は、偽陽性(ダウン症ではないが陽性となる)が増えるということ。

また、これはしっかり覚えておいて欲しいのだが、検査結果の伝え方で受け手はかなり違った印象をもつ。例えば出生前検査を受けて、「10人中8人がダウン症です」と言われるのと、「1万人中2000人はダウン症ではありません」と言われるのでは印象が全然違うはずだ。説明する側が中絶を勧めたいなら前者で、生ませたいなら後者で説明するだろう。こういう風に伝え方一つで、印象や今後の選択を操作される可能性があることは知っておいたほうが良い。

<関連>
リスク・リテラシーが身につく統計的思考法
ダウン症児は親を選んで生まれてくる