2013年7月31日

新・マフィアの棲む街―新宿歌舞伎町

新・マフィアの棲む街―新宿歌舞伎町
前作『新宿歌舞伎町 マフィアの棲む街』のほうが断然おもしろかった。

それはともかくとして、
「外国人犯罪は実際にはそう多くない」
「治安は悪くなっていない」
と主張する人たちは多く、警察発表の統計が根拠にされているのだが、この本を読むと、警察に駆け込めない被害者たち(例えば密入国者や不法滞在者など)が多いということもよく分かる。やっぱり治安は悪くなっているんじゃないのか? と思ってしまう。本当のところ、どうなんだろうね。

2013年7月27日

万歩計を買った

機種変更する前の携帯電話には万歩計がついていたが、新しい機種にはついていない。そこでネットで検索してタニタの万歩計を見つけた。タニタでは、カロリズムというのも発売されていて、これがなかなか面白そうだったのだが、胸付近に付けないといけないというのが面倒でやめた。それから、万歩計についてのレビューで、
歩数計を使う意味は、"今日も歩かなきゃ"と、自分で自分を励ますため。
というのがあり、これに妙に納得したのでシンプルな万歩計の購入を決めた。
タニタ 3Dセンサー搭載歩数計

2013年7月26日

蚊と人間のささやかな戦い

田舎の夏は蚊との戦いの日々でもある。ある日、蚊をやっつけながら、ふと思った。

「こいつら、人間が痒くならないような成分を出せば、こんなに嫌われて攻撃されることもないだろうに。なんでわざわざ痒くなる物質を出すんだ?」

なんでだろうなぁ、と考えているうちに、自分の前提が間違っていることに気がついた。蚊は、別に人間を痒くさせるつもりはさらさらない。むしろ人体のほうが、「蚊に刺されたら痒くなる」というシステムを作ったのだ。

なぜか。

蚊が媒介する病気は多いが、代表的なものはマラリアだろう。他にも、日本脳炎、ウエストナイル熱などがある。蚊に刺されると、こういう危険な病気にかかるので、人体のほうが防衛機構として「痒み」を備えたのだ。

というようなことをツイートしたら、さらに優れた意見がもらえた。
「蚊に刺されても痒くならない人種は淘汰されたのかもしれない」
なるほど、この考えも実に面白い。

蚊と戦う夏の日々、こういう色々なことを考えながら過ごすと、少しは気がまぎれるかも!?

夕方の鉄塔

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ソフトバンクの電波塔らしい。

アジア新聞屋台村

アジア新聞屋台村
順調に、と言うと変だが、無難に面白かった。クスッと笑うところも多く、また考えさせられるところもある。実に良い本だと思う。高野の生き方は独特かつ成功していて、これは彼だからこそできるもので、まずほとんどの人が真似できないだろうなぁ。

2013年7月25日

空がきれいだったので

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庭で撮影。

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裏庭から撮影。家の真裏がこういう感じだからムカデが出るんだろうなぁ……。

午前2時、またムカデ……

また出た。

いま午前2時だ。

一度目覚めてうとうとしていたら、顔がくすぐったくて飛び起きたらムカデがいた。殺虫剤を取りに行く間に見逃したら嫌なので、近くにあったティッシュで叩き殺した。これで一安心。


そんなわけがない。


もう怖くて寝れない。少なくとも布団に入る気がしない。床も同じく怖い。意味はないかもしれないけれど、ソファがまだ少し安心できる。2階のベッドで寝るのも意味があるかどうか分からないけれど、やっぱり多少は安心できる。とにかく和室の布団はムリだ。

この1週間で、屋内2匹、屋外1匹を発見・退治している。この屋外の一匹は、夜中に太郎が独特な吠え方をしていたので、絶対にムカデだと確信して懐中電灯を手に飛び出して発見し踏みつぶした。太郎は時どき自分でムカデを退治していることもある。わりと優秀なムカデ発見・退治犬である。

これから夏本番。早く蚊帳が到着するのが望まれる。

簡単組み立て蚊帳 幅200cm×高さ160cm


明後日から帰省するので、あと一晩の辛抱だ。

いや、実はそうでもない。母からのメールで、実家でも洗濯物の下からムカデが出て大騒ぎしたとのこと。そうだった、実家も田舎なんだった……。

<関連>
人生最大の恐慌
ムカデに足を這われた恐怖が拭えず……

2013年7月24日

玉ねぎ

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妻が仲良くしている中古車屋のおかみさんからもらった。

2013年7月23日

影響力の武器 実践編-「イエス!」を引き出す50の秘訣

影響力の武器 実践編-「イエス!」を引き出す50の秘訣

前著『『影響力の武器[第二版]-なぜ、人は動かされるのか』』に引き続き、非常に面白かった。これはもう、実際に手に取って読んでみてもらってこその本なので、あれこれ書かない。医療職から教師、商店主、ビジネスマン、その他あらゆる職業の人たちにお勧め。

2013年7月22日

アリスへの決別

アリスへの決別
山本弘の短編集で、面白かった。ただ最後の1編は流し読み。全編通して、山本弘が現代の日本社会のあり方に抱く疑問や怒りが盛り込まれていて、山本弘初心者が手を出すと、
「なんだか説教臭いSF小説だなぁ」
なんて思うかもしれない。

山本弘の『アイの物語』(ブログ内レビュー)を読んで、それまで食わず嫌いだったSFの面白さに気づかされた。それ以来、色々な分野の本を読む合間でSFを読みたくなる。山本弘は俺のSF嫌いを治してくれた作家として、今後もちょこちょこ読むことになると思う。

2013年7月21日

ムカデに足を這われた恐怖が拭えず……

昨夜はムカデの恐怖から立ち直れず、どうも落ち着いて眠れなかった。そういえば妻も、ここのところあまり熟睡できていないようで、
「ムカデが出たらどうしようと思ってたんだよね」
とのこと。もう二度とあんな怖い思いはしたくない。

対策をいろいろネット検索したら、寝ている間はやはり原始的な蚊帳が一番確実なようだ。そこでAmazonで蚊帳を購入した。

簡単組み立て蚊帳 幅200cm×高さ160cm
テント型の折りたたみ式だ。レビューを見ると、やはりムカデに刺されたり、這われたりした人たちが購入を決意しているようで、非常に共感を覚える。早く届いて!! ゆっくり寝たい!!

<関連>
人生最大の恐慌

宇宙人の襲来も、想定すべきか 『リスクとの遭遇』

リスクとの遭遇

「宇宙人の襲来も、想定すべきか」という魅力的な帯のキャッチコピーに魅かれて購入したものの、本としての中身・内容は薄い。ただ多くの参考文献が紹介してあり、そのうち数冊が面白そうだったので購入した。そういう意味で、決して無駄になる本ではなかった、と思いたい。本の中身そのものは決してお勧めできないレベル。

2013年7月20日

人生最大の恐慌

今朝、人生で最大の恐慌に陥った。

普段は朝5時くらいからリビングで読書するのだが、昨日から妻とサクラが帰省しているので、寝室である和室の布団の上で本を読みながらうたた寝していた。すると、ふと左の太ももがむず痒い。短パンジャージの紐でも当たっているのかと思って、体の向きをかえたら治まった。でもしばらくするとむず痒い。蟻かなんかいるんじゃないかと思って見てみた。

ムカデだった。それも、けっこうデカイ。

飛び起きた。叫び声は出なかったが、
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
と荒い息を繰り返しながら、無我夢中でムカデを振り払った。体から離れてしまえばこっちのもので、力の差は歴然としている。なんの困難もなくあっさりと殺すことができた。いま思い出しても、二度としたくない経験だ。

ところで、妻とサクラが帰省していてよかった。ムカデが出たのは午前7時。上述したように、普段なら俺はリビングにいて、二人はまだ布団の上で寝ている時間帯だ。どちらかが噛まれていたかもしれないと考えると、今日このタイミングで出てきたのは我が家全体にとっては幸運だった。

ムカデ殺し、もう少しきっちり散布しないといけないな。フマキラーから新製品が出ていたので購入。

フマキラー ムカデカダン粉剤 1.1kg

<フマキラーの商品説明ページ>

水滴ぱらぱら

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2013年7月19日

きみはいい子

きみはいい子
DVを扱った短編集。なんだか胸焼けしそうな小説ばかりなのだが、読後感は最悪というわけでもない。自分は虐待を受けたわけではないので読み通せたが、実際に虐待を受けた人が読むのは辛いと思う。読みながら、何度も何度も思った。俺は我が子を抱きしめながら育てよう。

<関連>
「愛されたい」を拒絶される子どもたち―虐待ケアへの挑戦
殺さないで―児童虐待という犯罪
「自己責任」の使い方に絶句した話
オッパイとドパミンと産後うつ
ルポ 児童虐待

2013年7月18日

美女と魔物のバッティングセンター

美女と魔物のバッティングセンター
面白かった!!
登場人物が魅力的。思わずプッと吹きだすシーンもあり、そしてアッと驚くラスト。なかなかにお勧めの本。

※『東京バッティングセンター』の改題なので、既読の人は間違えないように。

2013年7月17日

コマ劇場前での出来事を思い出す 『新宿歌舞伎町 マフィアの棲む街』

新宿歌舞伎町にあるコマ劇場は、2008年に閉館した。仕事を辞めてブラブラしていた1年間のうち数回、夜中にこのコマ劇場前にギターを持って行って歌ったことがある。1999年か2000年のことだ。

そのうちの1回で、チンピラなのかヤクザなのか分からない、ちょっとドスのきいた感じの酔っ払い男にからまれた。スーツを着たパンチパーマで、30代後半くらいだったと思う。俺の前にやってきて俺に背中を向けて座り込んで、しばらくはタバコをふかしていた。なんだかやりにくいなぁと思って黙っていたら、男が半身で振り向いて、
「やらんのか」
と言う。
「はぁ……」
と少し頭を下げると、
「おい、お前どこのもんだ」
とかなんとか、そんなことを言い出した。困ったことになったと感じたが、路上でギター演奏するうちにいつかはこういう日が来るだろうとも予想していた。なんとか切り抜けられないかと、のらりくらりと男の質問をはぐらかしながら答えていたら、だんだんと男の声に苛立ちが混じり始めた。何が気に触ったのか、ついに男が完全にこちらを向き、
「おうおうおうおう」
と詰め寄りかけたその瞬間のことだ。
「ちょっと、あんた、何やってんだい」
そう声をかけてくれたのが、コマ劇場前の屋台で花売りをしていたオバちゃんだった。頭巾をかぶった痩せ型の、もう初老と言っても良さそうな人だ。
「さっきから、そっちで見てたんだけどさ」
ネオンの灯りでオバちゃんの表情はよく分かる。オバちゃんは不敵な笑みを浮かべていたが、眼光は鋭かった。
「あー?」
男が面倒くさそうにオバちゃんに目を向けた。
「あんた、そんな若い子に絡んで……、フンッ、ったく情けないねぇ」
そして、オバちゃんは俺のほうに、
「お兄ちゃん、無視しといて良いよ」
と言った。それで男が怒らないはずがなく、
「おいこら」
とオバちゃんに凄む。それに対してオバちゃんは怯むことなく、
「はぁ……、言わなきゃかねぇ。ほら、あんた、こっちおいで」
と男を手招きして、ゴニョゴニョと何やら話し込んでいた。数十秒くらい経ったころだろうか、男が、妙にペコペコし始めて、オバちゃんに、
「じゃ、これで失礼しま~す」
なんて軽い挨拶をした後、俺に向かって、
「おう、じゃ兄ちゃん、頑張れよ!」
と言って去って行った。何が何だか分からなかったのだが、オバちゃんは俺の近くに座って、
「まぁ、ここでこんな商売してればそれなりに顔が広くなるからね」
と笑った。
「花屋さんですよね?」
と聞くと、
「まぁ、確かに花も売ってるんだけど、こっちもやるのさ」
そう言って、オバちゃん、手のひらをヒラヒラさせた。
「ん?」
と悩む俺に、
「占いだよ、占い」
笑いながら、オバちゃんは俺の手を取って手相を眺め始めた。そして俺の顔を見て、また手相を、顔を、手相を、と見比べてから、
「お兄ちゃん、何してる人?」
「無職です……、一応」
なにが一応なのか分からないが、そう答えてしまった。そんな俺に、
「普通はタダじゃみないけど、まぁこれも縁だから」
オバちゃんはにっこり笑って、
「お兄ちゃんは、大丈夫だよ」
とだけ言った。
「はぁ……」
「あたしんとこにはね、政治家とかヤクザの親分とかがね、お忍びで来るんだよ」
「はぁ」
「そんなあたしが大丈夫って言うんだからさ、お兄ちゃん、ただの大丈夫じゃないよ」
かなり胡散くさいと思っていた俺の気持ちが態度に出まくっているのも気にせず、オバちゃんはご機嫌そうに屋台に戻って行った。

オバちゃんのところに政治家やヤクザがお忍びで来るという話が本当かウソかは分からず仕舞いだったが、それから1年半後、俺は医学生になっていた。あの「大丈夫」というのは、このことだったのだろうか。それともまた別の何かなのだろうか。永遠の謎ではあるが、オバちゃんの「大丈夫」という言葉に励まされたこと、そして今も時どき励まされていることだけは確かだ。

新宿歌舞伎町 マフィアの棲む街

ところで、この本を読んで、よくもまぁこんな危ないところで無防備にギターなんて弾いていたものだと、我ながら若かりし自分の無警戒さに呆れてしまった。歌舞伎町近辺で遊ぶ機会の多い人には是非一読して欲しい本。

2013年7月15日

セルフポートレイト

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2013年7月14日

路傍の花たち

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2013年7月11日

じゃ、死ねば?

「じゃ、死ねば」
そう言われた時の衝撃は、15年以上経った今でも忘れない。
忘れきれない。

「俺、自分のこと好きになれないんだよね」
そんなことを言うのがカッコいいと思っていた19歳。大学には行かず、バイトもせず、仕送りだけでダラダラと生きる。中途半端な知識と、過剰な自意識と、溢れ返る性欲で、平日はあっという間に過ぎるのに、土日だけは時間を持て余していた、あの頃。

大学に行かず引きこもっていた俺にとって、友人たちと飲むことだけが俺が持つ社会との唯一の接点だった。「社会」とはいえ、全員が学生。狭い、狭い社会だ。そんな中に、彼がいた。

俺は、同級生の中でも、ぴか一に出席率が低かった。よく言うたとえ話だが、俺は4年間でルーズリーフ1枚も埋めていない。いや、シャープペンの芯を1本使い切ってさえいないのだ。4年間で300日、大学へ行っただろうか。それくらい、俺は大学へ行く気がなかった。不真面目さが理由ではない。むしろ、すり減るほどに真面目だった。だからこそ、大学なんてバカバカしいと思い、その想いを行動に移していた。

彼は、本質的には俺と同じだった。いや、俺から見ると、そう思えた。それは、俺の勘違いだったのだけれど。共通点は、大学には気が向いた時にしか行かない、実はそれだけしかなかった。彼は自分の目的のためにバイトをしていたし、俺なんかより、ずっと女性とうまくやれていた。

そして、彼と俺は、大学二年生から卒業までをルームシェアするほど、気の合う親友でもあった。

ルームシェアを始める数ヶ月前。大学一年生の頃だ。そんな彼と二人で飲んでいた。場所は、彼のおんぼろな部屋だった。俺は、斜に構えて、ウィスキーのコーラ割りを飲みながら、カッコつけて言った。
「俺、自分のこと好きになれないんだよね」
そういう言葉をたれることが、カッコ良いと、そう思っていた。自己弁護じみてしまうが、そんな風なことを考えたり言ったりするのは、俺だけではなく、多くの人が経験するのではないだろうか。どうなんだろう。

さて、俺のそういう何気ない一言に対して、彼のサラリとした言葉。
「じゃ、死ねば?」
俺は言葉を失った。置時計の秒針のカチカチという音がしっかり聞こえるほど、二人きりのその場は静かだった。俺には、返す言葉がなかった。彼は、笑いながら、いや、怒っていたのかもしれない、続けて、こう言ったのだった。

「でも、お前が死んだら、俺は大泣きするよ」

数秒、俺は黙ったと思う。俺はじわりと出てきた鼻水をすすって、コークハイを飲んで、それから、
「死ぬか、バーカ」
そう言って彼と笑いあった。

お互いに、もうすぐ二十歳になる春の夜だった。




自分のことが嫌いなんて、思うものではない。
まして、声に出して言うものでは決してない。
それは、目の前にいる親しい人に対して、すごく失礼なことなのだ。




上記は、半分はフィクションだ。俺の大学生活が自堕落だったのは事実だし、実際に3年間ルームシェアした友人はいた。実はその彼こそが、
「俺は自分のことが嫌いだ」
と言っていたのだ。そんな彼とは、たまにはちょっとしたケンカもしながら3年間を過ごした。そして卒業間際に彼が、
「お前といて、俺は自分のことが好きだと思えるようになったよ」
と言ったことは、嘘のような本当の話。怠惰に生きながらも自分を愛し続ける俺を見ているうちに、彼の中の何かが変わったのだと思いたい。

天を衝く

天を衝く(1)


長かった……、でも面白かった。高橋克彦の描く武者は人間的魅力に溢れていて、読んでいて胸が熱くなる。あくまでも小説であり、史実・事実がどうだったのかは分からないが、少なくともこれに似たような時代を経て、今の日本があるのだなぁとしみじみ思う。

2013年7月10日

世界一わかりやすいデジタル一眼レフカメラと写真の教科書

世界一わかりやすいデジタル一眼レフカメラと写真の教科書
帯に魅かれて買ってしまった。20歳の頃からなんとなく始めたカメラ。それなりに本は読んできたので、そう目新しいことが書いてあるということはなかったが、作例がけっこう印象に残るものが多くて、きっとそういう参考例が自分の中に蓄積・発酵することで、いつかまた良い写真が撮れるのだと思う。それなりに良書だと思う。

2013年7月9日

コンチクショウ!! ぶっ潰す!!

親友が、蹴り殺された。

人目を忍んだような社葬の帰り道、私はそのままスポーツジムへ行き、入会手続きを済ませた。さらにボクシングジムに寄って入門もした。徹底的に鍛えたかった。

生まれつき体は弱い方だった。小学校でも中学校でも、どちらかといえばいじめられっ子だったと思う。先輩に逆らったことなどないし、同級生とケンカなんてしたことはもちろんない。それでも、大人になったら、いわゆる「ただの人」にはなりたくないという、そんな思いだけは、なぜだろう、小さいころからずっと持っていた。

大学で誘われたサークルは、全学連とか全共闘とか、そういったものを包括したような怪しげな組織だった。子どものころからマイナーなグループにいるのが当然だった私は、自然とそのサークルに入ることになった。サークルを取りしきるリーダーは不気味な人だったが、なんとも言えないカリスマ性を持っていた。新入部員の歓迎挨拶を聞いていると、自分も「ただの人」ではなく何者かになれる、そんな気がした。リーダーの颯爽と歩く姿にたなびくマントが美しかった。同期の連中も皆心酔した様子だった。そのサークルは全国の他大学のサークルとも連携していて、年に二回は全国集会があった。結束力は、18歳の私から見ても一流企業以上という気がした。

大学三年生の全国集会で、横浜の大学に通うヤスシと知り合った。ヤスシは空手三段、剣道二段、そして書道も初段という、いかつい顔をした男だった。私とヤスシは歳も同じで、下宿も比較的近かったことから、お互いの家を行き来して、夜遅くまで酒を飲んだ。ヤスシの口癖は、「ぶっ潰す」だった。何をぶっ潰すのか、それは分からない。私の口癖は、「コンチクショウ」。もちろん、何に対してのコンチクショウかは分からない。だけれども、私たちには、得体の知れないエネルギーがあった。何者かになるぞという志し。何かを成し遂げたい心意気。上に立ちたいという野望。それから、「ただの人」にはなりたくないという恐れにも似た感情。幼くて、泥臭くて、どす黒い気持ちを、時に鎮めるように、時に鼓舞するように、二人で安い焼酎を飲んだ。

ヤスシには恋人がいた。東北出身のタミコという小柄な子で、雑種犬のような顔をして気がきく子だった。ヤスシは、私といる時には亭主関白といった感じで、タミコに対する口も態度も悪かった。
「お前、早く酒をつげ。ぶっ潰すぞ」
ヤスシは、よくそんな風に言っていた。こんな扱いをされながらも、タミコがどうしてヤスシと一緒にいるのか疑問に思ったものだった。ある夜、私が酔いつぶれて寝てしまい、ふと目が覚めた時、ヤスシが優しい声でタミコに、
「ありがとう」
と言っているのを聞いて、妙に納得してしまった。柔道も剣道も有段者である彼の優しい言葉には、私なんかには及ばない力強く頼もしい感謝の響きがあった。寝返りを打つふりをして、
「コンチクショウ」
小さく呟いた。

大学を卒業して、私とヤスシは同じ会社に就職した。サークルとつながりの強い会社で、先輩たちもほとんどそこに勤務していた。私とヤスシは配属先が違っていたので、連絡を取り合うことは徐々に少なくなった。大学を卒業して二度目の三月。ヤスシから、結婚する、という電話をもらった。相手は、もちろん、タミコだ。タミコのお腹には、すでに新しい命が宿っているという。私は、電話口に大声で、
「コンチクショウ」
と叫んだ。嬉しさが度を超して言葉にならない時、人は言い慣れたセリフしか出ないのかもしれない。

「もうすぐ俺にも子どもができるんだよなぁ」
先週、電話口でヤスシは嬉しそうにそう言った。ヤスシの声は、決して明るくはなく、かといって沈んではおらず、敢えて表現するなら、寂しそうだった。理由は、なんとなく分かる。俺たちは、命を懸けて会社に尽くすし、命を懸けられないなら周囲を危険にさらす。
「この仕事、子どもがいたらやれないからな。週末のタスクで最後にするわ」
ヤスシは心底、今の仕事が好きだったのだ。私は、ヤスシの全てを分かっているわけではなかったが、タミコの次くらいには理解しているつもりだった。
「良いじゃないか、おめでとう……、コンチクショウ」
それが、最後の会話になった。

ヤスシが死んだと連絡があったのは、一昨日のことだ。駆けつけた私が見たのは、ヤスシの遺体と、お腹の大きいタミコだった。タミコは私を見るなり、ど汚い雑種犬の顔で大声を出して泣いた。彼女の金切り声に近い泣き声は、私を現実から引き離してくれた。私はヤスシの腫れあがった顔を見ながら、ただただひたすらに、
「コンチクショウ、コンチクショウ」
そう呟いていた。

ヤスシが死んだ翌日、貧相な社葬から帰る直前、タミコに呼び止められた。彼女は涙も流さず、気丈に言った。
「ぶっ潰して」
私は、タミコの目を半ば睨むくらいの勢いで見つめた。
「任せろ、コンチクショウ……、コンチクショウ」

二十キロのダンベルを持ち上げると、腕がつりそうになる。
「コンチクショウ」
私は叫びながら、腕を曲げる。ボクシングのスパーで殴られても、
「コンチクショウ」
そう叫びながらヤスシの顔を思い出し、右手でも左手でも、動く方の拳を相手に叩きつけた。スポーツジムやボクシングジムが終わると、家まで十キロを走って帰った。
「コンチクショウ、ぶっ潰す、コンチクショウ、ぶっ潰す」
白い吐息に混ざって、私の言葉が宙に浮かんだ。

家の近くに川原がある。私は、そこで毎日、こう叫ぶのだ。
「コンチクショウ!! ぶっ潰す!!」
タミコの大きなお腹と、ヤスシの腫れた顔を思い出す。学生時代の笑い顔が頭に浮かぶ。「ありがとう」とタミコにささやくヤスシの声が脳裏に響く。
「コンチクショウ!! コンチクショウ!! コンチクショウ!!」
結婚の祝いに叫んだ言葉が、今や憎い仇への呪詛と化している。
「ぶっ潰す!! ぶっ潰す!! コンチクショウ!! ぶっ潰す!!」
汗も涙も、蒸気となって消えていく。

来週末、私たちの支社で街を襲うことが決定した。そのタスクに私は志願した。タスクがうまくいくかどうかは関係ない。そんなものはどうでも良いのだ。あいつを殺る。それだけで良い。そんな私の覚悟が、会社上層部に通じた。

もはや私は、「ただの人」ではなくなった。ヤスシの仇を討ち、タミコの無念を晴らす。ヤスシの想いを継ぎ、タミコの悔しさを背負う。ヤスシの怒りを胸に刻み、タミコの悲しみを心に抱く。私は、「ただの人」ではない。仮面ライダーを倒すためだけに存在する生き物になったのだ。

私は、「ただの人」ではない。

私は、「ただの人」ではない。

私は、「ただの人」ではない。


私は。



もはや。




人ですらないのだ。

シロツメ草で覆い尽くされた公園

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2013年7月8日

水平線の上に

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水平線の上に、青みがかった空気の層(?)があり、その上に雲が乗っかっている。

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最大倍率で撮影。運転中に見つけたので、公園に車を停めて撮影。するとそこには患者とその家族が遊びに来ていて、
「先生! こんにちは!」
狭い島、どこに行っても患者に会う……。

ところでこの空気の層はいったい何だったのだろう?

2013年7月3日

地下を歩く人

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天神地下街にて。

Lightroomを使って現像・補正した。カメラはもちろん構図が命で、あとは光をどう解釈するかが大事だと思っている。明るい部分がメインなのか、それとも暗い部分を見せたいのか。無料で公開する素人写真なので大体で良いのだが、そのあたりを気にするだけで自分が撮っていて面白くなる。さらに加工までやり始めると、その楽しさが倍加する。加工にも個人の好みが出る。俺の場合、こういう濃くて粗めの写真が好きで、よくこういう仕上がりになる。

この写真の元画像を掲載しておく。

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ミャンマーの柳生一族

ミャンマーの柳生一族

高野秀行が船戸与一と行くミャンマーの旅。高野のキャラクターの面白さが、船戸与一に食われてしまっているところが笑える。それもまた高野の文章力なのだろうが、この本でますます船戸与一が好きになってしまった。なんて面白いキャラクターをした人なのだ。ちょっと会ってみたい気がする作家の一人。本の内容は面白かった。

2013年7月2日

家のない少女たち 10代家出少女18人の壮絶な性と生

家のない少女たち 10代家出少女18人の壮絶な性と生

人間として底辺と言っても良いような連中がゴロゴロ出てくる。それは少女たち自身のことではなく、彼女らがこんな人生を送るに至った原因を作った人たちのことだ。それは主に親であるが、それ以外にも「イジメの延長で援交をやらせた同級生」という奴らもいる。時どきニュースでそういう話を見聞きしていたが、被害者のその後というのはあまり関心を持たれていなかったように思う。

筆者はちょっとウェットである。彼女らに共感し同情し、時には親やイジメっ子らに憤る。そのあたり、似たようなAV女優や援交生徒、風俗嬢にインタビューを続ける中村淳彦のドライさとは反対だが、ともに魅力的な語り口ではある。

思わずため息が漏れてしまうような暗い世界の話だ。その世界は、遠く離れた異国の地にあるわけではなく、自分たちの生活のすぐ側にある。知らないほうが呑気に暮らせた、でも知って良かった。そんな内容を抱えた本。

<関連>
職業としてのAV女優
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2013年7月1日

物乞う仏陀

物乞う仏陀
世界の「貧困」と日本の「貧困」はやっぱりレベルが違う、というか質が違う。これはもう本を読まないと分からない世界だと思う。なぜなら映像で伝えるには衝撃的すぎて、きっとテレビでは放映されないから。
世界の貧困に活字で触れて、頭と胸の中がモヤモヤしてしまう一冊。