2012年6月23日

田舎の風

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蛙の鳴き声を聞きながら夜道を急いだ。タクシーのテールランプが遠ざかる。暗さに目が慣れたころ、ホタルが一匹、目の前を横切った。蛙もホタルも、ずいぶんと久しぶりな気がする。
かぁちゃん、もうちょっとだけ待っとってくれ。
ずっと住んできた家で逝きたいという母の気持ちを、育ててもらった家で看とりたいという弟夫婦が支えてくれた。見よう見まねの看病は、する方もされる方も決して楽ではなかっただろう。そして、そんな日々は、もうすぐ終わる。
「かえる、なぜ鳴くの、かえるは田んぼに、かわいいたくさんの子があるからよ」
子どものころに母の作った替え歌を口ずさむと、目の前がにじんだ。家の灯りが見え始めると、蛙が一斉に鳴き声を強めた。振り返っても、さっきのホタルはもう見えなくなっていた。涼しくて哀しい、田舎の風が吹く。

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