2012年3月19日

「気持ちは分かる」って、気持ち悪いよ……

夜間のナースコールが嫌で、入院患者に医師の指示なく看護師が睡眠剤を無断で点滴していたというニュースに対する反応で、

「気持ちは分かる。でもやっちゃダメだよね」

というものがもの凄く多くて、なんか気持ち悪いなぁ不気味だなぁと感じていた。どうしてそう思うのかをつらつらと考えて思い至ったので、気持ち悪い発言をしている人たちに向けて炎上覚悟で書く。覚悟の上だけれど、一応最初に言っておくと、反論する人を俺は見下げるから返答はしない、と思う。では、書こう。

あのね。

ネット上で「自分も医療従事者です」と名乗るのは自由。もしあなたがニセモノの医療者だったとしても、医者ごっこ、看護師ごっこ、介護員ごっこは自由にやって良い。だけど、あなたがホンモノの医療者で、「自分は医療者である」と表明したなら、今回のこの事例を「気持ちは分かる」なんて、屈託なく、軽く言ってはいけない。それはプロとしての自覚に欠ける。あまりにも欠けている。だから気持ち悪い。

医療者なら、今の医療を取り巻く現状、周囲からの視線、そういうの分かるでしょ? そんなの知らない聞いたことない分かるわけない関係ないという人は、お帰りはブラウザの左上あたりに矢印がありますので、どうぞ。

さて、そういう状況で、多くの自称・医療者が、今回の事例に対して、「気持ちは分かる」なんて書いているが、それを非医療者が読んでどう思うだろうか。例えば、飛行機のパイロットが飛行中に居眠りして逮捕されたとか、オペ中に外科医がキレてメスをオペ看護師に投げつけて問題になったとか、そういうニュースがあったとして、それに対する同業者の意見が、「気持ちは分かる~、でもやっちゃダメだよね~」だとしたら、飛行機もオペも怖くて仕方がない。

素人は、素人の目線で、プロの発言に注目している。

「自分も看護師(介護員)だけど」と枕詞をつけた以上、あなたの発言はプロの発言として注目される。そこで、あなたが、「気持ちは分かる」と言ってしまえば、いかに後から言い訳のように、「だけど、やっちゃダメだよね」と付け加えようと、素人からは、「そうか、なんだかんだで気持ちは分かるんだ……」と思われる。

だから俺は、このニュースに対する反応が気持ち悪くて仕方がないのだ。

反論は受け付ける。
ただし、プロとして言え。

<追記>
今回の事件に関して、俺はこの看護師を責めるつもりはあまりない。逆に擁護する気はまったくない。彼の職場環境を知らずに責めることと、知らずに擁護するのは、どちらも似たり寄ったりだと思うからだ。

ではこの日記で何が言いたいかというと、それはニュースに反応した我々の態度についてである。仕事の愚痴は、同業者同士で言い合えば良い、というか、そうあるべきで、今回の事件のような明らかな違法行為に対して「気持ちが分かる」というのを、医療のプロが、mixiやツイッターといった全体公開の場で書くことを批判したいのだ。

mixi日記のほうでは現場の環境が過酷すぎるという反論もあったし、愚痴くらい言わせてくれよといった意見もあった。たしかに日本の医療福祉、特に看護や介護を取り巻く環境はあまりに過酷であり、それは大いに是正していくべきだ。俺はつい先日、看護師の待遇を上げるべきだという話し合いに参加してきたばかりだ。しかし、なかなか難しい。お役所は頭が固くて現場を知ろうともしない。ほんと、腹が立つ。

だけど、この事件とこの日記に関してだけ言うならば、労働環境問題とは切り離すべきである。いや、これを機会に看護師や介護士の労働環境問題を大いに取り上げて訴えていっても良いと思うが、そのときの枕詞に「同じ看護師として気持ちは分かる」というのをつけてしまってはマズイだろうと思うのだ。

だから、俺のスタンスとしては、「気持ちは分かると書きたくなる気持ちは分かるけれど、気持ちは分かるなんて書かないほうが良いよ」という早口言葉みたいな感じになる。
「夜中のナースコール嫌」患者に睡眠剤 無断投与…元看護師
兵庫県三田市の市立三田市民病院で、高齢の入院患者数人に睡眠導入剤を無断で投与したなどとして、県警捜査1課が、同病院の元看護師の男(34)(兵庫県丹波市)を医師法違反(無資格医業)と窃盗の両容疑で書類送検していたことが、捜査関係者への取材でわかった。元看護師は、「夜中にナースコールを鳴らされるのが嫌で患者を眠らせたかった。仕事のストレスがたまっていた」と容疑を認めているという。

書類送検は16日付。捜査関係者によると、元看護師は昨年1~5月頃、ナースステーションから睡眠導入剤を数回にわたって無断で持ち出したうえ、医師の資格がないにもかかわらず、当直勤務中に担当する入院患者のうち、特定の男女数人(70~80歳代)に点滴を使って投与する医療行為を行った疑い。

同病院は、急性期医療を担う総合病院(300床)。同病院の説明によると、患者に処方される医薬品は、ナースステーション内で患者ごとの引き出しに入れて保管していたが、当時は数量のチェックをしていなかった。県警は、元看護師が隙を見て盗み出していたとみている。

元看護師は昨年5月、男性患者の顔を殴ったとして傷害容疑で逮捕されて罰金20万円の略式命令を受け、停職3か月の懲戒処分となった同6月に依願退職。睡眠導入剤の投与は、傷害事件の捜査過程で浮上した。元看護師は、これまでの読売新聞の取材に「何も話すことはない」と答えていた。

(2012年3月19日 読売新聞)

0 件のコメント:

コメントを投稿

コメントへの返信を一時中止しています。
一部エントリでコメント欄に素晴らしいご意見をいただいており、閲覧者の参考にもなると思われるため、コメント欄そのものは残しております。
また、いただいたコメントはすべて読んでおります。