2012年2月11日

高校生が「死んでやる」といって飛び降りたというニュースを聞けば、真っ先にいじめを思い浮かべるのは分かるけれど……

高校一年生が、一緒にいた友人らに対して、
「死んでやる」
と言って、廊下の窓から飛び降りたそうだ。

このニュースに関するブログなどをたらーっと流し読みしていると、いじめによる自殺と断定したものが多すぎるのだが、そんな情報がどこかから出ているのか? それともただの思い込みによる決めつけか?

もちろん、いじめによる自殺の可能性もある。でも、それ以外の可能性もある。中にはインフルエンザ脳症やタミフルについて書いている人もいて、そういう風に視野を広げて考えてみるのが大事だ。精神錯乱や異常行動を引き起こす状況なんてたくさんある。

例えば、あくまでも可能性の一つとして、みんなで違法薬物をやっていたのかもしれない。それから、急性発症の精神病の可能性だってある。

研修医時代、こんなことがあった。

普通のサラリーマン。最近、どうも元気がない。それで職場の人が心配して近所の心療内科に連れて行った。彼はそこで薬をもらって、同僚と一緒に病院を出た。そのあと、彼はいきなり走り出した。同僚が追いかけたが、ぜんぜん追いつけない速さだ。
「ヤクザに追われている!」
と叫びながら彼は走り続け、近所の魚屋に入り込んで包丁を奪った。そこから先は、かなり華々しい自傷を行ない、どうにか取り押さえられて救急車で運ばれてきた。

さて、この状況でどう考えるか。

統合失調症の発症?

それはもちろん考える。しかし、やはり違法薬物も考えなくてはならないし、脳炎による異常行動もありうる。もしかしたら脳に腫瘍があるのかもしれないし、代謝異常が隠されているのかもしれない。他にも、異常行動や幻覚を起こす可能性のある状況はいろいろある。

そして、精神科で鑑別を考えるときにこれが一番大切なことだが、本当にヤクザに追われていたのかもしれない。にっちもさっちもいかなくなり、本当に死なないといけないくらい追いつめられていた可能性はあるのだ。精神科医なら、多少突飛なことでも、患者の言い分は否定せず可能性リストに入れておく。研修医時代だったので、そこまで頭はまわらなかったが。

可能性を一つしか思い浮かべずに治療することを、医者の世界では「決め打ち」という。決め打ちしてしまうと、他の可能性を示唆する症状やデータが見えなくなる。見えても無視したくなるし、自分の決め打ち診断を支持する症状やデータが大きく見える。結果として、誤診につながる。当然、誤治療となる。

冒頭のニュースに戻ると、初報の時点でいじめと断定するのが決め打ち。もう少し可能性を広く考えておいたほうが良いんじゃないかな。
10日午前8時55分頃、前橋市石関町、群馬県立前橋工業高校(松下繁一校長)で、校舎3階の窓から高校1年の男子生徒(16)が飛び降り、9メートル下のコンクリート地面に転落した。
前橋東署によると、男子生徒は市内の病院に搬送されたが、意識不明の重体。同署は自殺をはかったとみて原因を調べている。
同高によると、男子生徒は授業が始まる前に複数の友人と話していたところ、突然「死んでやる」と言って教室を飛び出し、廊下の窓から飛び降りたという。
同高の樋口高則副校長は、「いじめがあった様子はないが、これから詳しく調査する」と話している。
(2012年2月10日 読売新聞)

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