2011年12月11日

三陸海岸大津波 記憶を風化させないために

明治29年の大津波の時の死者・行方不明者は、2万1959人。
今回の津波被害と同等であるが、人口密度が今より低いことなどを考えると、当時の津波のほうが凄まじかったのではないだろうか。

原発に関しては、政府・東電が「想定外」と繰り返すが、そうじゃない。
明らかに、想定「ミス」だ。
一家全滅した家は、数知れなかった。顔見知りの者同士があった折、
「あなたの家族はどうでした」
と、挨拶代わりに問う。その折に、十人家族のうち二人か三人が死亡したときくと、
「それは、よかった。おめでたいことだ」
と、祝いの言葉を返すのが常であった。

三陸海岸大津波
読んだのは平成23年6月22日。

この津波は、夜の八時半ころに発生している。現代日本の明るい夜をイメージしてはいけない。薄暗い街灯がぽつりぽつりとある程度がせいぜいの、そんな夜の出来事である。
六十歳の木村トラという女性は、突然流れ込んできた海水に驚いて十歳と五歳の孫を首にかじりつかせ鴨居にとびついた。水は見る間に上昇して頤(あご)にまで達した。
これまでと観念した時、家が浮き上がって流れ出した。沖にさらわれれば一命はなかったのだが、幸いにも家が石づくりの井戸の台にひっかかって止まった。そして、水は猛烈な勢いで干いていったので、トラは、孫を抱えると家を飛び出し、屈強な男子でも上ることのできない背後の絶壁をよしのぼって死をまぬがれた。
5歳児と10歳児と言えば、それぞれ20キロと30キロはあるだろう。還暦を迎えた女性が、そんな二人を抱えて絶壁をよじ登る光景を想像して、目頭が熱くなる。

或る老女は、津波襲来後、屋根の上に這い上がったが、屋根が大きく傾斜しつかまっていられなくなったため、浮かんでいる大きな材木にとりついた。しかし、その材木も激浪にもまれて絶え間なく回転するので、やむなく流れてきた大きな手水鉢のような容器の中に移った。
老女は、鉢とともに波の中を流されていったが、そのうちに大波がきてくつがえりそうになり、流れてきた大きな材木にとりすがった。幸いこの材木の中央部には穴があいていたので、その穴の中に両腕を突っこんで波にもまれていた。
しばらくして、足にふれた物があったので足先でさぐるとそれは地面であった。老女は、大いに喜んで土の上に坐り夜をすごした。
やがて夜が明け、あたりを見廻すと、意外にもそれは裏山の頂上であった。
昔話めいた結末であるが、津波の高さを物語るエピソードである。奇跡のような生還話は他にもある。
この太田名部の住民の死体を村民たちが津波襲来の翌日探していると、赤ん坊の泣声がきこえる。村民があたりを探すと、意外にも17メートルほどの大樹の枝に子供がひっかかって泣いていたという。それは、生後一年にもみたぬ嬰児で、その家族のただ一人の生き残りであった。

遺体捜索の生々しい様子も語られている。
死体の多くは、芥や土砂の中に埋もれていた。生き残った住民や他の地方から応援に乗り込んできた作業員たちの手で収容されていたが、掘り起こしても死体の発見されない場合が多い。
そのうちに経験もつみ重ねられて、死体の埋もれている個所を的確に探し出せるようになった。死体からは、脂肪分がにじみ出ているので、それに着目した作業員たちは地上に一面に水を流す。そして、ぎらぎらと油の湧く個所があるとその部分を掘り起し、埋没した死体を発見できるようになったのだ。

昭和8年の津波では、政府・政治家の対応が現在とは雲泥の差である。現在の政府・政治家・国会が愚者の集まりかと思うほど、当時の対応は早い。
中央各省でも被災県と緊密な連携をとり、救援活動を開始した。たまたま国会の開催中であったので、衆議院では議員一名につき十円の寄附金を集めて北海道、青森・岩手・宮城三県にそれぞれ贈り、各政党では代議士を現地視察のため派遣した。
衆議院・貴族院では、被災地救済の諸提案がすべて満場一致で可決、各種税金の・減・免・猶予等をはじめ、食料、衣類、寝具、住宅材料等の無料配布や、道路、港湾の復旧促進が決定された。
最優先がなんであるのかを分かっている人たちの対応だ。いや、今の議員連中も、優先順位はしっかり把握しているはず。ただ単に、順位の付け方が一般の感覚と違っているだけだ。

記憶は風化する。だから記録に残す。それでも、記録の存在そのものが忘れ去られていく。

今年、買って(借りるのではなく)読むべき本を一冊あげるとしたら、本書である。

<関連>
遺体 震災、津波の果てに

5 件のコメント:

  1. 来年3月に被災地でチャリティー演奏会に参加します。
    先輩の関わり方とは異なりますが、少しでも心の癒しになるような音を奏でられるように日々奮闘中です。もちろん薬学の勉強も奮闘中です。CBTとOSCEが目前でストレスフルな毎日です。

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  2. >あっこ
    薬学部でもCBTやOSCEがあるんやねぇ。
    ところで、もう演奏曲は決まってるの?

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  3. 決まってますよ。
    ショパンのピアノ協奏曲第1番と、単独でリストの愛の夢をやる事になってます。

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  4. >あっこ
    どっちもタイトル聞いても分からんかったw

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  5. ロマン派も良いですよ!バロック派からの影響受けてる曲が多いので時代の変遷が伺えて面白いです。先輩の好みではないかもですが…音楽も深読みしながら聴いていくと、新たな魅力に引き込まれると思います。引き込まれて下さい。

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返事が遅くてすいません。