2011年12月2日

認知症女性のセックスシーンが、微笑ましくも切ない 『吾妹子哀し』


作家・青山光二が90歳にして発表した『吾妹子哀し』は、その年度の最高の短編小説に贈られる川端康成賞を受賞した。タイトルは読み方が難しいが、「わぎもこかなし」と読む。主人公の杉圭介が、アルツハイマー型認知症の妻・杏子の髪を切ってあげながら、「吾妹子の、髪梳る(かみくしけずる)、春の宵……」と口ずさむシーンがあり、そこからのタイトルだと思われる。

杉圭介は80歳後半の男性。アルツハイマー型認知症の妻・杏子も同じ歳くらい。物語りは、老老介護の話であると同時に、年老いてもなお続く恋心、愛を扱った話でもある。

本自体には短編『吾妹子哀し』と、続編で長編の『無限回廊』が収録されている。『吾妹子哀し』のほうが面白く、これはぜひとも読んで欲しい、お勧めの本である。興味を持って欲しいので、一部を抜粋する。ただし、短編なのでごく一部のみにとどめる。

妻の杏子は、来客に菓子を用意するといって、様々な色の薬を盆に並べるほどに認知症が進行している。場面は、杉圭介と杏子が寝室にいるところ。娘夫婦の仲が良いという話から、妻の杏子が言う。
「わたしたちも仲がいいのよね」
「年をとっても、ふしぎに仲がいい」
「あなたが逃げても、わたし、あなたを離さないわよ」
「逃げるわけがない」
「いちばんだいじな人」
どちらからともなく、お医者さんごっこを始めた。しばらくぶりだった。杏子のかんじんの部分は開口部がいくぶん小さくなっていたが、ちゃんと濡れていた。
老いてなお、そして、呆けてもなお、自然にセックスへ至る二人の、エロチシズムのない肉欲の美しさ、それと同時に、ちょっとした滑稽さと、切なさ。そういったものが凝集された部分だと思う。

川端康成賞を獲ったくらいの小説であるから、読んでおいて損はない。長寿社会になった現代日本で、認知症介護は、どんな人にも起こりうる普通のことなのだから。

0 件のコメント:

コメントを投稿

コメントへの返信を一時中止しています。
一部エントリでコメント欄に素晴らしいご意見をいただいており、閲覧者の参考にもなると思われるため、コメント欄そのものは残しております。
また、いただいたコメントはすべて読んでおります。