2018年1月19日

妄想を、否定しないで修正できるか

「薬を飲みたくないんです」
「どうしてですか?」
「自分の霊感は本物なのに、薬を飲むと霊感が弱められるから」
「なるほど。ところで、霊感で得したことはありますか?」
「いいえ」
「困ったことは?」
「あります」
「それなら、霊感が弱まるほうが良いのでは?」
「そうですね(笑)」

妄想を否定せず、内服継続に結びつけた会話の一例である。

たとえば「家族が死んだ」という妄想のある入院患者に、何度「生きていますよ」と訂正してもなかなか納得してくれないとする。この訂正は、相手からすると「否定」であり、どうにも具合が悪い。

そこで、
「もし亡くなったと連絡があれば、あなたには真っ先にお知らせしますね」
という返しかたをしてみる。こうすれば、相手を否定する言葉の「圧力」は弱まる。それに、もしこれに対する相手の返事が「お願いします」であれば、「家族が死んだ」という妄想は少し緩和・修正されたようなものである。

こんなふうにして、特に精神科医は、診療ツールとしての言葉をひたすら工夫してみなくてはならない。

2018年1月18日

ダマされないために! 『あなたもこうしてダマされる』


表紙の絵から「詐欺に騙されないための本」くらいに思っていたが、もっと骨太で、社会心理学とか広告技法とか、そういう分野について様々な研究結果をもとに書かれている名著だった。敢えてマイナス点をあげるなら、「はじめに」の部分が退屈で、そこは読み飛ばして良かろう。

いくつか非常に面白く感じた部分があったので、少し紹介したい。

まず、以下の質問について考えて欲しい(できれば、回答を紙に書いたほうが面白い)。

1.トルコの人口は3000万人より多いか否か?
2.トルコの人口をできるだけ正確に見積もるとどれくらいか?

さて、答えは用意できただろうか。

ここでタネを明かすと、質問1の「3000万人」というのは適当に選んだ数字である。そして、多くの人は2の回答で、この3000万という数字に影響されてしまう。なお、実際のトルコの人口は8000万人弱である。

この他にも様々な心理的誘導とも言うべき手口が紹介されている。たとえば商品の値段について。日本のスーパーだと「1000円」より「980円」と、キリのいい数字より端数のほうが多い。そして、「1000円を600円」より「980円を580円」のほうが値引き幅が大きいと感じる人が多い、といった話もある。

最後に、ダマされないために別の視点から問題を見直すというテーマで書かれていたジョークを紹介。

若い司祭が司教にたずねる。
「祈りながらタバコを吸ってもよろしいでしょうか?」
司教はきっぱりだめだと答える。そのあと、若い司祭は、祈りながらタバコを吸っている先輩司祭を見つける。若い司祭は先輩に注意する。
「祈りながらタバコを吸っちゃいけません! 司教にたずねたら、ダメだと言われました」
それを聞いた先輩司祭、
「そりゃ変だな」
続けてこう言う。
「タバコを吸っているときに祈っても良いですか、とたずねたら、どんなときでも祈っていいと言われたよ」

2018年1月17日

いつか加害者家族になるかもしれない人、つまり、すべての人に読んでみて欲しい 『加害者家族』


事件・事故を起こした人に対して、ネットでは「死刑にしろ」なんて極端な意見が飛び交う。また「家族も同じ目に遭わせてやれ」といった危険で扇情的な叫びもある。

でも、こう問われたら、どうだろう。
「あなたや、あたなの恋人、配偶者、親兄弟、親戚、親友が、いつ加害者になるとも分からないんですよ。それでもあなたは同じことを言い続けますか?」

つい先日、友人の母が交通死亡事故を起こしたらしい。そう、我々は、被害者になるのと同じくらいの確率で、加害者になる確率もあるのだ。そして、被害者や被害者家族と同じだけの数、加害者家族がいるということだ。

被害者に同情するのは当然だし、被害者家族を守るべきなのも当たり前のことだ。加害者を憎む気持ちも自然だ。だがしかし、加害者の家族を責めてどうなる? 育て方の問題? 確かにそうかもしれない。もっと早くに兆候に気づくべきだった? それもそうだろう。加害者家族が苦悩する姿を加害者が見て苦しむのも、罰の一つ? そういう面もあるかもしれない。それでも確実に言えることは、

「事件・事故を起こしたのは、加害者家族ではなく、加害者本人である」

ということだ。

それでも加害者家族を責める感情は自由だし、口に出して悪態をつくのも良いだろう。だがしかし、加害者家族の名前や住所、勤務先、顔写真などを見つけ出して曝してまわるような権利など誰にもないはずだ。現実には、「我こそは正義なり」といった人たちによって、加害者家族が自殺に追い込まれるケースもあるようだ。

「それもこれも、加害者が事件・事故さえ起こさなけれ良かった話だ」

そう簡単に言えるだろうか。

加害者家族を攻撃する人は「正義の鉄槌を下した」と満足するのかもしれないが、その独善的な考えは、犯罪加害者の思考と紙一重ではなかろうか。いや、怖さで言えば、すでに捕まった加害者よりも、「独善的な仕置き人」のほうがはるかに怖い。

本書は、事件・事故の加害者家族を何人か取材し、さらに国内のデータや海外のケースや対策などを通して、加害者家族とはどういうものかを描いている。薄い新書なので、とことんまで突き詰めるといった感じではないが、考えさせられることの多い本だった。

いつか加害者家族になるかもしれない人、つまり、すべての人に読んでみて欲しい。また、加害者には絶対に読んで欲しい。あなたの起こしたことが、あなたの家族をこんなにも苦しめているのだということを知って欲しい。

2018年1月16日

完ぺきに実践できなくても良い、読むこと、知ること、考えること、それが大切 『お父さんだからできる子どもの心のコーチング』


『子どもの心のコーチング』がとても良かったので、今度は父親向けに書かれた本書を読んでみた。

前著を読んでから数年。書かれていた内容を上手く実践できているかというと……、なかなか理想どおりにはいかない現状。とはいえ、読んでいなかったらできなかっただろうな、という声かけもいくつかある。

たとえば、洗濯ものをたたんでくれたときに、ただ「ありがとう」と伝えるのではなく、「おかげで早く終わったよ、ありがとう」と一言添える。あるいは、何かを頼むときに、ただお願いするだけでなく「してくれると嬉しいな」と伝える。

「そんなこと当たり前でしょう」というパーフェクトな子育てをしている人は読む必要ないだろう。日々の子育てをより良いものにするために、なんでもいいからヒントが欲しいという人にはお勧めの一冊。

2018年1月15日

疫学をテーマにした感染症パニック小説 『エピデミック』


疫学をテーマにした小説である。登場人物の中に疫学について知らない人がいて「やくがく?」と尋ねていたのが面白かった。もしかすると同じような間違いをする人がいるかもしれないので一応書いておく。これは「えきがく」と読む。

関東のある県で発生した致死率の高い非定型肺炎をめぐって、疫学チームが感染の「元栓」を締めるための調査に奔走する。ミステリ、サスペンスのような要素も入っており、ストーリーは飽きさせない。極端すぎるキャラづけをされた登場人物はおらず、多少のエキセントリックさはあっても、どこにでもいそうな人たちばかりだ。そして、そんな彼らが感染症パニックに対して右往左往する姿は非常にリアルである。

アタリ小説だったが、平成29年12月時点で書籍は絶版、kindle化もされていないようでもったいない。