2017年3月24日

地図は現地ではない。精神科医療において、「地図」と「現地」を結びつける役割をもつ訪問スタッフのための実践書かつ哲学書 『 精神保健と福祉のための50か条』


「地図は現地ではない」という言葉がある。

いくら地図に詳しくても、現地の空気感までは分からないということだ。同じように、精神科医が患者の情報にひたすら詳しくなっても、その患者の家の中、周囲の環境、そういったものを実際に見ないことには、「現地」としての患者を感じることはできない。

ところが、往診を積極的にやる病院でない限り、医師が病院外に出る機会は少ない。ほとんどないと言って良い。そういうなかで、「地図」と「現地」を結びつける大切な役割をもつのが、訪問看護や保健師の訪問である。そして、本書はそういう業務に携わる人たち向けの実践書であり、また精神保健に従事するための哲学書でもある。

『精神科看護のための50ヵ条』と同じく、素晴らしい内容だった。ただ、病院が活動拠点の精神科医である自分にとっては看護のほうが身近なので、『看護のために』が実践的で役立つものであるのに対し、本書のほうは「気構え・心構えとして非常に参考になる」という感じだった。

訪問をメインにしている看護師や作業療法士、保健師、保健所職員にとっては実践的でためになる話が多いのではなかろうか。

2017年3月23日

精神科患者からスタッフが暴力を受けたときに、医師がとるべき態度

俺の不在時に、病棟の女性看護師が患者から抱きつかれたそうだ。

女性看護師にとっては、何歳になろうと、もちろんどんな体型であろうと、男性患者から突然に抱きつかれるのは恐怖である。こういうことが起きたら、医師はその看護師へのケアを第一優先にして、「怖かったでしょう」「あなたは悪くない」といったメッセージをしつこいくらいに伝えるべきである。

精神科患者からスタッフが暴力や理不尽な暴言を受けた場合、いくら加害者が患者であっても、医師は「喧嘩両成敗」や「中立」的な態度はしないほうが良い。むしろ、瞬間最大風速としては完全にスタッフの味方になるくらいの心構えが必要だ。中立になるのは、スタッフのケアをやってからでも遅くはない。

ここで、中立になろうとしたり、煮え切らない態度をとったりすると、スタッフは安心して仕事ができず、それは結局のところ患者のためにならない。こういう場合の「中立」は、患者の味方をしているようでいて、実は単に自分の身を安全圏に留めておきたいだけなのである。そして、そういう気持ちはスタッフにもよく伝わる。また、自分が被害にあったわけではないスタッフも、その時に医師がどういう態度・対応をするかはしっかり見ている。

患者ファーストを常日頃から心がけていても、スタッフファーストになるべき事態は稀ならず起こる。この時にとるべき態度を誤ると、スタッフからの信頼は得られない、あるいは得てきた信頼も失ってしまう。


下の2冊は、自分が病棟での対応に失敗した時に読んで大いに参考になり、また反省につながったもの。

 

2017年3月16日

複数の視点で語られる新選組が活き活きしていて面白い 『新選組 幕末の青嵐』


新選組を題材にした小説である。物語は、土方歳三がまだ薬売りをしていた思春期時代から時系列で進んでいくが、約10ページごとに章が変わり、同時に主人公も交代する。近藤勇、土方歳三、沖田総司といった有名どころだけでなく、永倉新八、斉藤一といった歴史通が好みそうな人たち、原田左之助、山南敬助、井上源三郎、それから芹沢鴨、武田観柳斎、伊藤甲子太郎といった人たちも語り手になる章がある。

非常にきれいにまとまった小説で、読みながらまったく退屈することがなかった。あとがきによると、これを2ヶ月半で書き終えたというのだから凄い。

新選組に詳しい人が読むと、あれこれ欠点が目につくのかもしれないが、史実に拘泥せず面白い小説が読めれば良いという人にはお勧めできる。

2017年3月15日

「てんかん臨床エッセイ」なんて初めて読んだ! 『モンタナ神経科クリニック物語』


アメリカの医学部を卒業し、アメリカで勤務する日本人医師、それも「てんかん専門医」の診療エッセイである。

これまで医療エッセイは数多く読んできたが、「てんかん臨床」を主題にしたエッセイは初めてだ。もしかすると、出版されている中で「てんかん臨床エッセイ」と呼べるのは本書だけかもしれない。ほぼすべての章が、患者や家族とのやりとりをはじめとした臨床エピソードで成り立っている。

ある女性は、てんかんの男性を長らく献身的に支えてきたのに、彼がてんかん手術を受けて発作が改善すると、なぜか家を出て行ってしまう。この話を読んで、日本人もアメリカ人も「こころの機微」は同じだなぁとしみじみ。しかし、このあたりのこころの動きについて本書では触れられないままであった。というより、むしろ著者の感想は「なんでだろうねぇ」というものだった。

てんかん発作の専門用語や薬の名前はほとんど出てこないので、一般の人が読んでも難しいところはほとんどなく面白いと思う。医師としては、著者のてんかん患者に対する愛情に好感が持てて、自らの診療を見直すきっかけにもなった。「てんかん臨床エッセイ」に興味のある方にはぜひともお勧めである。

類似の本で、お勧めのものをご存じの方は教えてください。

2017年3月14日

プロ世界の厳しさと優しさを知る 『プロ野球 二軍監督 男たちの誇り』


しつこいようだが、俺はプロ野球にも高校野球にも一切興味がない。一試合をまともに観たこともないし、ソフトボールは経験があっても、いわゆる「上投げ」での野球をやったことがない。バッティングセンター経験は10回にも満たない。

それなのに、なぜ野球ものの本を読み続けるのか、自分でもよく分からない。

ただ、野球ものの本で描かれるプロとしての姿勢、考え方、生き様、人間模様、その他もろもろが、精神科医として、あるいは病棟医長としての自分にとって参考になる気がするのは確かだ。

選手のことは、よほど有名でもない限り知らないので、こういう本を読んでも、聞いたことのない選手名がたくさん出てくる。当然、面白さも減るし、感情移入もそうできない。そんなわけで、一時は野球ものを断とうとも思ったが、きっと、これからも読むのだと思う。野球に興味を持てないままに……。

野球を読む。

そういう読書、そういう野球とのかかわり方もありなのだ、たぶん。