2018年4月21日

ちょっとブラックな短編集 『あなたがさっき食べたのは、ボクのお母さんです』


スマホにKindleアプリを入れたので、無料で読めるプライムリーディングを利用して読んでみた。「KDP作家」というのを初めて知った。「Kindle ダイレクト・パブリッシング」の略である。KDPは「自費出版」みたいなものなので、質はかなりバラつきがあるらしい。

本書のタイトルから食育関係かと思わされるが、実際にはちょっとブラックな短編集である。収録されているのは以下の6編。いずれもちょっとしたオチがある。

「願いをかなえる悪魔」
「アナタがさっき食べたのは、ボクのお母さんです」
「有機3Dプリンター」
「開かずの扉」
「骨折アルバイト」
「脳内ちゃんねる」

このうち秀逸なのは「脳内ちゃんねる」で、ちょいちょい吹き出しながら読んだ。このギャグセンスは好き。ラストはちょっと好みではない。

「開かずの扉」「骨折アルバイト」の二編は主人公が同一で、シリーズ化できそうなくらいキャラだちが良いのだが、「骨折アルバイト」のオチがちょっと弱かった。

どの短編も一定の質は保たれているが、あと一歩か二歩くらいのレベルアップを期待!!

ちなみに、著者はツイッターもされている。@tikyuumarui

2018年4月20日

いま介護している人と、いずれ介護される人たちへ。それから、猫好きな人と、そうでない人たちへ。 『天国への旅立ちを知らせる猫』


老人ホームに住む猫・オスカーには、
「死期の近づいた入居者が分かるらしい」
そんな奇妙な噂がある。その人が亡くなる直前に居室に現れ、ベッドの上で患者に寄り添い、息を引き取るのをそっと見守るというのだ。

その施設で働く著者・ドーサ医師は、最初は施設職員が語る噂を信じようとはしなかった。しかし、オスカーを観察していくうちに、オスカーには「なにか」があると考えるようになる。

本書はなんと、医師なら知らない者はいない権威ある医学雑誌NEJM(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)に連載されたエッセイで、多少の脚色は混じっているだろうが実話である。

自分自身、精神科医として認知症の患者やその家族、施設スタッフと接する機会が多いだけに、本書の内容は身近であり、かつ考えさせられた。

ドーサ医師が学生時代に受けた授業を回想する場面があり、その講師の言葉が印象的だったので少し長いが抜粋引用する。
「医療の現場では、医師はよく診断を追及するというあやまちを犯します。いいですか、わたしがここで言いたいのは、病名の診断などさほど重要な問題ではない、ということです。内科医にとっては重要に思えるでしょうし、多くの患者さんもまたそれが重要だと思うでしょう。でも、請けあいます。たいてい、それは見当違い。だって自分の病気が進行性核上性麻痺なのか、アルツハイマー型認知症なのか、ピック病なのか、それともレビー小体型認知症なのか、患者さんがほんとうに気にかけると思いますか?
医師にとっては、とても重要です。病名は、わたしたちが互いに情報を伝達する言語ですから。疾患を定義し、それについて話すうえで役立ちます。しかし、患者さんにとって同様に重要であるとは言えません。
その病気によって自分の生活が変化するかどうかを、患者さんは一番気にかけます。この病気で自分は死ぬのか? 病気になってからも歩いたり、身の回りのことをしたりできるのか? 夫や妻、子どもの世話はできるのか? 痛みはあるのか? 患者さんがいちばん気にかけるのは、そうしたことなのです」
最後に「後記」として、ドーサ医師が認知症の人の介護をしている家族へのアドバイスを5つ挙げているので、これもまた抜粋して紹介しよう。

1.自分自身を大切にしよう。
長期にわたり、一人で責任を背負いこみ、成功した人などいない。

2.現在を生きよう。

3.長い目で見ながらも、ささやかな勝利を祝おう。
「食欲が上向いた」
「あるモノの名前を覚えていた」
そんなささやかな勝利を。

4.質の良い介護を求めよう。
違いを生むのは、施設と家族の関わりである。

5.愛して、手放そう。
どんなに最愛の人であっても、最後には手放すしかない。それは施設に入所させることかもしれないし、死期が迫ったとき自然なかたちで看取ってあげることかもしれない。いずれにしろ、認知症の終末期の人を手放すのは敗北ではない。それは、愛ある行為なのだ。


今や日本は超高齢社会であり、認知症の問題を避けて通れる人はごく一握りだ。

いま介護している人と、いずれ介護される人たちへ。
それから、猫好きな人と、そうでない人たちへ。

この本をお勧めしたい。

2018年4月19日

腫瘍内科医の友人も勧めている名著 『医者は現場でどう考えるか』


腫瘍内科医の友人も勧めている名著。

著者のグループマンはハーバード大学医学部の教授。一般人向けと書かれてはいるものの、医師が読んでもすごくためになる本だ。

また、「この本を書くにあたって、精神科医については奥が深すぎるので除外する」と精神科を持ち上げるようなことが書いてあるが、実際には精神科医が読んでも参考になることが多く、また刺激的だった。

本書は翻訳者・美沢惠子の力量も素晴らしい。医師でこそないものの、国際化学療法学会、国際移植学会、アレルギー・免疫学会、小児科学会、救急医療学会、看護学会などに所属し、医学論文の翻訳に従事しているようで、さすがと頷くレベルの訳に仕上がっている。

医療者・非医療者にかかわらず、多くの人に勧めたい本。

ただし、値段が高い。現時点では中古でも1000円超える。これは購入者泣かせ。これくらいの値段にしないと執筆者・訳者・出版社の利益が出ないのも分かるのだが……。図書館にあれば理想か……。

2018年4月18日

長女の涙目、家族のスタイル

今朝の登校。長女サクラはずっと手をつないでいた。校門前で、
「パパ……」
と涙目。周りに他の子もいたが、抱っこしてグルグル回したら笑顔になった。

学校がイヤとか不安とかではなさそう。涙の理由はたぶん、次女の入園式に行けないから。家族は自分以外みんな参加するから、それが寂しかったみたい。

これまで、俺が仕事を休んで参加してきた行事はすべて長女関係のものだった。長女にとって、俺が仕事を休むのは「家族の行事」だったのだろう。
それが今回は、俺が休むのに、長女は参加できない。のけ者にされた気がしても仕方がない。これからも同じようなことはあるはずで、慣れるしかない、か?

妻と話し合った結果、俺が仕事を休んで参加する行事は、子どもも学校や幼稚園をなるべく休ませて参加させよう、ということになった。

異論や反論はあるかもしれないが、家族一丸となって応援したり祝ったり、それが我が家スタイルということで良いじゃないか、と。

次のビッグイベントは2年後、三女の入園式。このとき3年生になっている長女に「学校休んで参加したいか」を尋ねてみようと思う。もちろん、本人が学校に行きたいと言うなら、それを尊重する。

いまのところ、こんなふうに考えている。

2018年4月16日

見ただけでなく、現地で働いた人にしか描けない世界 『藻屑蟹』


著者・赤松さんとは、僭越ながら個人的に少しだけやり取りをさせていただいている。年に数回、互いの近況をかいつまんで報告し合うような関係で、ときどき赤松さんの作品を添付していただくこともあった。

そんなある日、「まだ明らかにはできないが、ある賞をとれるかもしれない」というメールをいただいた。まだ確定ではないという話だったので、浮足立ちそうになるのを務めて抑え、しかし、こころは浮き立った。ついに赤松さんが世間から評価される日が来たか。

本作は作家「赤松利市」のデビュー作である。ただし、実のところ、赤松さんは以前に別のペンネームで本を出版されている。それを読んで書いたレビューが赤松さんの目にとまり、そこからのお付き合いになる。俺はその作品をとても面白いと思っているし、ここで大々的に宣伝もしたいのだが、「新人作家・赤松利市」の門出となる本書のレビューで紹介するには不向きと考え断念する。

さて、本作について。

出版されていないものも含めた作品を知っている身からすると、本作は赤松さんらしさが研ぎ澄まされ、ヒリヒリするような作品に仕上がっていると感じた。ただ、この研ぎ澄まされた「赤松さんらしさ」という評価が、ご本人にとって褒め言葉なのか、あるいは歯がみされるものなのか。赤松さんなら、賛辞を賛辞として受け止めつつ、歯がみもされそうな気がする。

他のレビューにも書いてあるので、本の内容を詳述するのは避けつつ感想を書く。

前半から中盤にかけては、グイグイ引っ張られた。誰が読んでもひきつけられるはずだ。人によっては眉をひそめながら、あるいは主人公にある種の密かな共感を抱きながら、これまで誰も明瞭には書いてこなかった原発事故後の町を読むことになる。

この段階で出てくる脇役である友人らを、ただ原稿を埋めるだけの登場人物にせず、各人の背景に触れていくことで人物に厚みを持たせている。そして、主人公と彼らとの友人関係を通じて、主人公の日常生活が想像される。これを短編でやってのけるあたりが、スゴい。

中盤からラスト。赤松さんらしさが研ぎ澄まされ、赤松さんにしか描けないと感じるのはここだ。前半から中盤の内容が多くの人をひきつけるのは確かだが、極端な話、現地を知っていて、なおかつ赤松さんレベルの描写力があれば書けるものでもある(ただし、実際にはそんな人は稀有なのだが)。

赤松さんにしか書けない、描けない。そんな中盤からラストにかけてを好むかどうかが、本作品の読者の分かれ目になるのではなかろうか。

面白くてエンタテインメントに特化した小説も創られる赤松さんの筆が、今回はかなり人間を掘り下げるほうに振られた。インタビューなどを読む限りでは、今後もこの方向性で小説を書かれるようで、これから「赤松刀」がどう研がれていくのか楽しみである。とはいえ、赤松応援団の団長を自認する俺は、基本的にエンタテインメント小説が好きだ。いつかまた、魅力的なキャラが活躍したり、ゾッとするようなラストが待っていたりするエンタテインメント小説も読ませてもらいたいと、団長なのにワガママなことを考えている。

今後の赤松さんのご活躍に期待して、敢えて星を一つ預からせてもらいます。